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双極性障害とは

【専門医が解説】気分の波に悩んでいませんか?双極性障害(躁うつ病)を正しく理解する

「ものすごく調子が良くて、何でもできる気がする時期がある」
「そのあと、急に電池が切れたように気分が沈み込む…」
「周りから『人が変わったようだ』と言われることがある」

このような、気分の極端な「波」に悩まされていませんか?
それはもしかしたら、双極性障害(躁うつ病)のサインかもしれません。

双極性障害は、単なる「気分のムラ」や「うつ病」とは異なる、治療が必要な病気です。しかし、正しい知識を持ち、適切な治療を続けることで、気分の波をコントロールし、安定した生活を送ることが可能です。

この記事では、「双極性障害とは何か」という基本から、症状、原因、治療法、そしてご家族のサポートまで、詳しく解説していきます。ご自身の状態を理解し、回復への第一歩を踏み出しましょう。


双極性障害(躁うつ病)とは?- 「うつ病」や「気分のムラ」との違い

双極性障害は、気分が異常に高揚して活動的になる「躁(そう)状態」と、意欲が低下して憂うつになる「うつ状態」という、両極端な状態を繰り返す脳の病気です。

しばしば「うつ病」と間違えられますが、両者は全く異なる病気であり、治療法も異なります。うつ病だと思って抗うつ薬だけを服用すると、躁状態を誘発してしまい、かえって症状が悪化することがあるため、正確な診断が非常に重要です。

気分のムラうつ病双極性障害
気分の状態上がったり下がったりするが、範囲は穏やか気分が沈んだ「うつ状態」が続く気分が高揚する「躁状態」と、沈む「うつ状態」を繰り返す
日常生活への影響大きな支障はない日常生活に大きな支障が出る躁・うつ両方の時期に、人間関係や社会生活で大きな問題が生じやすい
治療法特には必要ない休養、抗うつ薬、精神療法が中心気分安定薬が治療の基本。抗うつ薬の使用は慎重に行う

双極性障害の主な種類

双極性障害は、主に躁状態の程度によって2つのタイプに分けられます。

  • 双極I型障害
    日常生活に重大な支障をきたすほどの激しい「躁状態」が少なくとも1回以上あるタイプです。躁状態の時には、入院が必要になることもあります。多くの場合、うつ状態も経験します。
  • 双極II型障害
    躁状態が比較的軽い「軽躁(けいそう)状態」と、重い「うつ状態」を繰り返すタイプです。軽躁状態のときは、本人も周囲も「少し調子が良いだけ」と見過ごしがちで、つらい「うつ状態」で医療機関を受診するため、うつ病と誤診されやすい傾向があります。

この他に、躁状態とうつ状態の症状が同時に現れる「混合状態」という場合もあります。例えば、「気分はイライラして落ち着かないのに、涙が止まらず悲しい」といった複雑な状態です。

双極性障害の原因

双極性障害のはっきりとした原因はまだ完全には解明されていませんが、主に以下の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

  • 脳の機能
    感情や思考、行動をコントロールする脳内の情報伝達のバランスが、何らかの原因で乱れることが根本にあると考えられています。
  • 遺伝的要因
    家族に双極性障害の方がいると、発症する可能性がやや高くなることが分かっています。ただし、遺伝だけで決まるわけではありません。
  • ストレスや環境要因
    過労、人間関係のトラブル、近親者との死別といった強いストレスや、生活リズムの乱れ(特に睡眠不足)などが、発症の引き金になることがあります。

双極性障害のサイン – 周囲が気づきやすい「躁状態」「軽躁状態」の特徴

うつ状態はご本人のつらさが分かりやすい一方、躁状態・軽躁状態はご本人に病気の自覚(病識)がないことが多く、周囲が「いつもと違う」と気づくことが重要になります。

  • 異常にエネルギッシュで活動的になる
  • ほとんど眠らなくても平気になる(ショート・スリーパーになる)
  • とにかくよく喋る、話が次々と飛ぶ
  • 自信に満ちあふれ、態度が大きくなる(誇大妄想的になる)
  • 次々とアイデアが浮かぶが、まとまりがない
  • 注意が散漫で、落ち着きがなくなる
  • 高額な買い物をしたり、ギャンブルにのめり込んだりする
  • 怒りっぽくなる、ささいなことで人とトラブルになる

特に「軽躁状態」は、本人にとっては「絶好調」に感じられ、仕事がはかどるなど良い面もあるため、病気だとは認識されにくいのが特徴です。しかし、その後に必ずうつ状態の揺り戻しが来ます。

双極性障害の症状 – ご本人が感じる「こころ」と「からだ」の変化

ご本人は、躁状態とうつ状態で全く違う心身の状態を経験します。

【躁状態・軽躁状態のときの症状】

  • 気分:爽快で、何でもできるような万能感がある。些細なことで激しく怒ることもある。
  • 思考:アイデアが泉のように湧き出る。考えが頭の中を駆け巡る(思考奔逸)。
  • 行動:じっとしていられない。危険を顧みない行動(浪費、性的逸脱など)に走りやすい。

【うつ状態のときの症状】
こちらは、うつ病の症状とほぼ同じです。

  • こころの症状:ひどい気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、自分を責める、死にたいと考える。
  • からだの症状:眠れない(または寝すぎる)、食欲がない(または食べすぎる)、ひどい倦怠感、身体の痛み。

もしかして?と思ったら – 診断と受診の重要性

双極性障害の診断は、問診によって行われます。特に、過去に躁状態や軽躁状態がなかったかを詳しくお聞きすることが最も重要です。

セルフチェックで診断を確定することはできませんが、医療機関を受診する前に、ご自身の状態を振り返っておくと、医師に伝えやすくなります。

【受診前に振り返ってみましょう】

  • これまでに、理由もなく「自分は絶好調だ!」と感じ、ほとんど眠らずに活動し続けた時期はありましたか?
  • その時期のことを、家族や友人から「あの時はちょっとおかしかった」「人が変わったようだった」などと指摘されたことはありますか?
  • お金遣いが荒くなったり、大きなトラブルを起こしてしまったりしたことはありますか?
  • 気分が落ち込む時期と、非常に活動的な時期を繰り返していると感じますか?

思い当たることがあれば、うつ状態の時だけでなく、「調子が良すぎた時期」のことも含めて、正直に医師にお話しください。それが正確な診断と適切な治療への近道です。

双極性障害の治療 – 気分の波をコントロールするために

双極性障害の治療の目標は、気分の波を小さくし、安定した期間を長く保つことです。薬物療法精神療法を組み合わせて、長期的な視点で治療を続けます。

【1. 薬物療法】
治療の土台となる最も重要な治療法です。

  • 気分安定薬
    その名の通り、気分の波を安定させるお薬です。躁状態とうつ状態の両方を予防する効果があり、治療の中心となります。(例:リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)
  • 抗精神病薬
    主に激しい躁状態の症状を鎮めたり、気分の安定を助けたりする目的で使われます。
  • 抗うつ薬
    うつ症状がひどい場合に、気分安定薬と併用して慎重に使われることがあります。単独での使用は躁状態を誘発するリスクがあるため、原則として行いません。

【2. 精神療法(心理社会的治療)】
お薬と並行して行うことで、再発予防の効果を高めます。

  • 心理教育:ご自身の病気について正しく理解し、付き合い方を学びます。
  • 認知行動療法:気分の波につながりやすい考え方や行動のパターンを見直し、ストレスへの対処法を身につけます。
  • 対人関係・社会リズム療法:対人関係のストレスを減らし、毎日の生活リズム(起床・就寝、食事、活動時間など)を整えることで、気分の安定を目指します。

自分でできる対処法(セルフケア)

治療を続ける上で、ご自身の工夫も回復を助けます。

  • 生活リズムを一定に保つ
    双極性障害のコントロールにおいて最も重要です。毎日同じ時間に起き、同じ時間に寝ることを徹底しましょう。徹夜や不規則なシフトワークは再発の引き金になりやすいです。
  • 気分の記録をつける(気分グラフ)
    日々の気分、睡眠時間、服薬状況、出来事などを記録することで、自分の気分のパターンを客観的に把握でき、再発の兆候を早期に察知できます。
  • ストレスを溜めない
    自分なりのリラックス法を見つけ、ストレスの原因から距離を置く工夫をしましょう。
  • アルコールや薬物を避ける
    アルコールは気分を不安定にさせるため、控えることが望ましいです。
  • 重要な決断は調子の良い時に
    躁状態やうつ状態のときは、判断力が低下しています。仕事や結婚、大きな買い物などの重要な決断は、気分が安定している時期に、主治医や家族と相談して行いましょう。

ご家族や周りの方にできること

ご家族の理解と協力は、ご本人の回復にとって不可欠です。しかし、躁状態の言動に振り回されたり、うつ状態のご本人を前に無力感を感じたりと、ご家族も大きなストレスを抱えがちです。

【ご家族のサポートのポイント】

  1. 病気を正しく理解する
    ご本人の言動は、性格ではなく「病気の症状」なのだと理解することが第一歩です。
  2. 躁状態のサインに気づき、冷静に対応する
    「眠らない」「口数が異常に多い」といった再発のサインに早く気づき、受診を促しましょう。本人の言動をまともに受け止めず、議論や説得は避け、冷静に距離をとることが大切です。金銭管理などで明確なルールを設けることも有効です。
  3. うつ状態のときは、そっと見守る
    励まさず、本人のつらい気持ちを受け止め、ゆっくり休める環境を整えてあげてください。
  4. 服薬と通院をサポートする
    ご本人が治療を継続できるように、さりげなくサポートしてあげてください。
  5. ご家族自身も相談し、休息をとる
    ご家族だけで抱え込まず、主治医や保健所、家族会などの専門機関に相談してください。ご家族自身の心の健康を守ることが、結果的にご本人を支えることに繋がります。

最後に

双極性障害は、確かに付き合っていくのが難しい病気かもしれません。しかし、適切な治療を粘り強く続けることで、気分の波に乗りこなし、あなたらしい人生を送ることは十分に可能です。

もし、ご自身や大切なご家族が気分の波で苦しんでいるなら、どうか一人で悩まず、専門家である私たちにご相談ください。一緒に、安定した毎日を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。

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