ボルチオキセチン(トリンテリックス)
新しいタイプの抗うつ薬の特徴と使いどころ
SSRIとは少し違う「セロトニン受容体を調整する」薬。認知機能や副作用の特徴を、服用中・検討中の方へやさしく解説します。
新しいお薬は「どんな薬だろう」と不安になりますよね。特徴を知ると、安心して治療に向き合えます。ただし、合うお薬は人それぞれ。この記事は一般的な解説で、実際の処方は診察のうえで一緒に決めていきましょう。
「新しい抗うつ薬を出されたけれど、どんな薬だろう?」——2019年に日本で登場したボルチオキセチン(商品名:トリンテリックス)は、従来のSSRIとは少し違う仕組みを持つ、新しいタイプの抗うつ薬です。特徴を正しく知ると、服用の不安がやわらぎます。※合うお薬は一人ひとり違います。自己判断で始めたり中止したりせず、必ず主治医にご相談ください。
ボルチオキセチンとは
「S-RIM」という新しい分類
うつ病のお薬として広く使われてきたSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、脳内のセロトニンの“再取り込み”を抑えて、その量を増やす働きをします。ボルチオキセチンは、この再取り込み阻害に加えて、複数のセロトニン受容体に直接働きかけて“調整”するという、ひと味違う作用を持っています。この仕組みからS-RIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)と呼ばれ、複数の作用を併せ持つことから「マルチモーダル(多角的)」な抗うつ薬とも言われます。
ボルチオキセチンは、デンマークのルンドベック社が創製し、日本では武田薬品が開発、2019年に承認されました。適応は「うつ病・うつ状態」です。用量は、1日1回10mgから開始し、症状に応じて20mgまでの範囲で調整するのが基本です(実際の量は主治医が判断します)。
注目される3つの特徴
ボルチオキセチンが新世代の抗うつ薬として注目されるのは、主に次の3点が報告されているためです。いずれも「すべての人に必ず当てはまる」ものではなく、臨床試験などで示された傾向として理解してください。
認知機能への効果
注意・記憶・処理速度など「頭の働き」の改善が試験で示されています
性機能障害が少なめ
SSRI等で起こりやすい性機能への影響が、比較的少ないと報告
体重増加が少なめ
一部の薬で問題になる体重増加が、起こりにくいとされています
「頭の働き」への効果が注目される理由
うつ病では、気分の落ち込みだけでなく、「集中できない」「考えがまとまらない」「物覚えが悪い」といった、頭の働き(認知機能)の低下が強く出ることがあります。これは仕事や学業に大きく響くため、働く人・学ぶ人にとって見過ごせない症状です。ボルチオキセチンは、この認知機能の改善が臨床試験で示されており、その点が特に注目されています。
大規模研究での位置づけ
抗うつ薬を比べた研究として有名なのが、Ciprianiらの大規模ネットワークメタ解析(2018年・Lancet)です。21種類の抗うつ薬を、約11万7千人分のデータで比較しました。この研究でボルチオキセチンは、「効果(有効性)」で上位7剤、「飲み続けやすさ(忍容性)」で上位6剤の、両方に入った数少ない薬のひとつでした。
ただし、これは「どんな人にも一番効く薬」という意味ではありません。研究によって結果に幅があり、一人ひとりに最も合う薬は、実際に使ってみないとわからない面があります。だからこそ、効果と副作用を見ながら、主治医と一緒に調整していくことが大切です。
副作用と注意点
もっとも多い副作用は悪心(吐き気)です。とくに飲み始めの時期に出やすく、多くは1〜2週間ほどで軽くなっていく傾向があります。そのほか、便秘や頭痛などが報告されています。
・他の一部のお薬(MAO阻害薬など)との併用ができません。服用中のお薬は必ず申告してください。
・抗うつ薬全般に共通する注意として、ごくまれに出血しやすくなることや、24歳以下では治療初期に自殺念慮が高まる可能性が指摘されています。
・急に中止すると、めまい・不調などが出ることがあります。やめるときも、必ず主治医と相談しながら進めてください。
どんな人に向いている?
合うお薬は人それぞれですが、ボルチオキセチンは次のような方で選択肢になりやすいと考えられます(最終的な判断は主治医が行います)。
- 「頭の働きの低下」が気になる方(集中できない・考えがまとまらない)
- 以前の薬で性機能への影響や体重増加が気になった方
- 飲み続けやすさを重視したい方
逆に、飲み始めの悪心が心配な方もいます。その場合も、少量から始めるなどの工夫が可能です。「この薬が自分に合うか」は、使いながら一緒に確かめていくもの。気になる点は遠慮なくご相談ください。
お薬は「一緒に決める」もの
2025年に改訂されたうつ病診療ガイドラインでも、患者さんと医師が一緒に治療を決める「共同意思決定(SDM)」が基本に据えられました。お薬選びも同じです。効果・副作用・あなたの生活(仕事を続けたい、眠気は困る など)を共有しながら、納得して選ぶことが、治療を続ける力になります。
- 効果が出るまでには、ふつう2〜4週間ほどかかります。焦らず続けることが大切です。
- 「効かない気がする」ときも、自己判断で中止せず、まず相談を。量の調整や変更を一緒に考えます。
- 気になる副作用は、早めに伝えてください。対処法があります。
(お薬選びの考え方は、コラム「うつ病診療ガイドライン2025」でもくわしく解説しています。)
当院でのお薬の考え方
当院では、お薬を始めるとき・変えるときに、「なぜこの薬か」「どんな効果と副作用が予想されるか」を、ていねいにご説明します。そのうえで、ご本人の希望をうかがいながら、一緒に選びます。働きながら治療される方には、眠気や生活への影響も考えた提案を心がけています。
当院は平日朝7時から診療しており、お薬の相談や調整のための通院も続けやすい環境です。「今の薬が合っているか不安」「新しい薬について聞きたい」——そんなときも、お気軽にご相談ください。
よくあるご質問
QSSRIと何が違うのですか?
Q飲み始めに吐き気がします。やめた方がいい?
Qどのくらいで効果が出ますか?
Q「頭が働かない」のにも効きますか?
Q長く飲んでも大丈夫ですか? やめられますか?
Qこの薬は、こちらのクリニックで処方できますか?
お薬の不安、ひとつずつ解消しましょう。
「自分に合う薬か知りたい」その気持ちに、ていねいにお応えします。
参考文献
- Cipriani A, et al. Comparative efficacy and acceptability of 21 antidepressant drugs for the acute treatment of adults with major depressive disorder: a systematic review and network meta-analysis. Lancet. 2018;391(10128):1357-1366.
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA). トリンテリックス錠 添付文書・医薬品インタビューフォーム.
- 日本うつ病学会. うつ病診療ガイドライン2025(2025年12月).
本記事は、一般的な情報提供を目的として、学術誌・公的機関・医学会の公開情報をもとに作成したものです。特定の医薬品の使用を推奨・勧誘するものではありません。お薬の適応・用量・中止の判断は、必ず主治医にご相談ください。自己判断での服薬の開始・中止・変更はお控えください。効果・副作用には個人差があり、本記事は特定の効果を保証するものではありません。
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