パワハラと労災
精神障害の労災認定が過去最多に
令和6年度、仕事による心の病の労災認定が初の1,000件超え。数字の意味と、いま私たちにできることを、働く人・ご家族・人事の方へ。
数字の大きさに驚かれるかもしれません。でも大切なのは「自分や身近な人が、いま無理をしていないか」に気づくこと。働きながら治療する道を、私たちは一緒に考えます。
2025年6月、厚生労働省が令和6年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。仕事による強いストレスでうつ病などの精神障害を発症し、労災と認定された人が1,055件にのぼり、統計開始以来はじめて1,000件を超えました。そして、その原因のトップはパワーハラスメントです。決して他人事ではない、この数字の意味を一緒に見ていきましょう。
初の「1,000件超え」
6年連続で過去最多を更新
仕事が原因の精神障害で労災認定された件数は、令和6年度に1,055件。前年度の883件から172件増え、6年連続で過去最多を更新しました。令和元年度の509件と比べると、わずか5年で2倍以上です。背景には、職場のメンタルヘルス不調が増えていることに加え、「それが仕事に起因する」と認められるケースが増えていることがあります。
なお、認定された1,055件のうち、未遂を含む自殺は88件でした。痛ましい数字ですが、これは「ここまで追い込まれる前に、できることがある」という現実の裏返しでもあります。早く気づき、早く相談することが、何よりの予防になります。
原因のトップは「ハラスメント」
労災認定の原因となった「出来事」を見ると、パワーハラスメントが224件で最多。次いで「仕事内容・仕事量の大きな変化」、そしてカスタマーハラスメント(カスハラ)が108件と続きます。とくにパワハラとカスハラの伸びが目立ちます。
この急増の背景には、令和5年9月の認定基準の見直しがあります。パワハラの類型が整理され、カスハラが新たに「出来事」として明記されたことで、これまで拾われにくかった被害が、適切に評価されるようになってきました。「我慢するしかない」と思われてきたことが、心の病として、そして労災として認められる時代になりつつあります。
誰に起きているのか
「働き盛り」が中心
労災認定を年齢別に見ると、もっとも多いのは40代(請求1,041件・認定283件)、次いで30代です。責任が重くなり、家庭でも負担が大きくなりがちな世代に集中しています。業種別では「医療・福祉」がもっとも多く、製造業、卸売・小売業が続きます。人と関わる仕事、対人ストレスの大きい現場ほど、リスクが高い傾向がうかがえます。
また、認定された人に占める女性の割合が年々増えており、令和6年度は約48%と、男女差は着実に縮まっています。パワハラ被害224件のうち、101件は女性でした。うつ病などの心の不調は、立場や性別を問わず、誰にでも起こりうるということです。
そもそも「労災」とは?
しくみをやさしく
労災(労働者災害補償保険)は、仕事が原因のケガや病気を補償する公的な制度です。心の病も、「仕事による強いストレスが原因」と認められれば、その対象になります。認定されると、治療費や、休んでいる間の生活を支える給付などを受けられます。判断は、次の3つの要件でなされます。
労災の申請窓口は、勤務先を管轄する労働基準監督署です。申請できるかどうか・どう進めるかといった手続きの相談は、労働基準監督署や、社会保険労務士・弁護士などの専門家が担当します。一方で、「心の病を発病しているか」という医学的な部分は、私たち精神科・心療内科が担当します。診断書の作成など、医療の面からのサポートが可能です。
労災に「該当するかどうか」を当院が判断・保証することはできません。手続きや認定の見通しについては、労働基準監督署や社労士・弁護士へのご相談をおすすめします。当院は、診察・診断・治療と、必要に応じた診断書の作成という、医療の役割を丁寧に果たします。
心の不調のサインと受診の目安
強いストレスやハラスメントが続くと、心と体にさまざまなサインが現れます。次のような状態が2週間以上続くときは、無理をせず、早めの相談を考えてください。
- 眠れない/朝早く目が覚める、または眠りすぎる
- 気分が晴れず、何をしても楽しめない
- 会社や特定の人を思うと動悸・吐き気・涙が出る
- 食欲がない、または食べすぎてしまう
- 集中できない・ミスが増える・出社が怖い
- 「自分なんていない方がいい」と感じることがある
こうした不調は、適応障害・うつ病・不安症などとして現れることがあります。これは「気の持ちよう」や「弱さ」ではなく、強い負荷に対する、心の自然な反応であり、治療できる状態です。早く対処するほど、回復もスムーズになります。
会社・人事・ご家族にできること
メンタル不調は、早期発見と環境調整で重症化を防げます。職場・家庭それぞれにできることがあります。
- ラインケア:管理職が部下の変化(遅刻・ミス・表情)に気づき、声をかける
- セルフケア:自分の不調に気づき、早めに休む・相談する
- 相談窓口:社内外の相談先・産業医・EAPなど、つなぐ先を用意しておく
- ご家族:問い詰めず「最近よく眠れてる?」と寄り添い、受診に同行する
2025年の法改正で、ストレスチェックは従業員50人未満の事業場にも義務化が拡大され、カスハラ対策も事業主の義務に向かっています。企業規模を問わず、心の健康を守る体制づくりが求められる時代です。(くわしくは当院コラム「ストレスチェック義務化」「五月病・適応障害」もご参照ください。)
当院の診療と、働きながら治すという選択
当院は、働く人・学ぶ人が通いやすいよう、平日朝7時から診療しています。「出勤前に立ち寄る」「会社を休まずに通う」ことができ、受診のハードルを下げています。ハラスメントや過重労働による不調についても、診察・治療・必要に応じた診断書の作成まで、医療の面から丁寧にサポートします。
- 治療方針は、あなたの希望(働き続けたい/少し休みたい)を聞いて一緒に決めます。
- 休職が必要なときも、復職の見通しを立てながら伴走します。
- プライバシーに配慮した受診環境を整えています。
よくあるご質問
Qパワハラでうつ病になったら、労災になりますか?
Q診断書はもらえますか? 何に使えますか?
Q会社に知られずに受診できますか?
Q労災の申請は、どこにすればいいですか?
Q「我慢できるレベル」かもしれません。受診していいですか?
Qストレスチェックで「高ストレス」と判定されました。どうすれば?
がんばりすぎる前に、相談してください。
働きながら治す道を、私たちは一緒に探します。
参考文献
- 厚生労働省. 令和6年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(令和7年6月25日公表). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59039.html
- 厚生労働省. 過労死等の労災補償状況(各年度)/業務災害に係る精神障害に関する事案の労災補償状況.
- 厚生労働省. 心理的負荷による精神障害の認定基準について(令和5年9月改正).
本記事は、一般的な情報提供を目的として、厚生労働省が公表する統計・基準をもとに作成したものです。個々の事案が労災に該当するか否かの判断は、労働基準監督署等が行います。診断・治療方針は必ず主治医にご相談ください。記載の統計値は令和6年度公表時点のものです。本記事は特定の結果を保証するものではありません。
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