心の病は「特別な人の問題」ではない
世界の大規模研究が示す、精神疾患による健康損失
「まさか自分が」「弱いからだ」――そう感じて受診をためらう方は少なくありません。けれど世界の大規模研究は、心の不調がとてもありふれたものであることを示しています。数字が語る事実と、そこから見える希望を、精神科専門医がやさしくお伝えします。
「まさか自分が」――その思い込みを、数字がほどく
心の不調を感じても、「自分が心の病になるなんて」「気の持ちようだ」「相談するほどではない」と、受診をためらう方はとても多くいらっしゃいます。その背景には、「心の病は一部の特別な人のもの」という思い込みがあるのかもしれません。
けれど、世界中のデータを集めた大規模な研究は、まったく違う事実を示しています。心の不調は、世界で最も多くの人が抱える健康上の課題のひとつなのです。この記事では、精神疾患による健康損失についての世界的な調査をもとに、「あなただけではない」という事実と、そこから見える希望をお伝えします。
精神疾患は「健康損失」の最大級の原因のひとつ
世界疾病負荷研究(GBD)は、204の国と地域を対象に、さまざまな病気が人々の健康にどれだけの負担をもたらすかを測る、世界最大級の研究です。その最新の分析(2021年)は、精神疾患が「障害による健康損失(YLD)」の最大級の原因のひとつであることを示しました。実に、世界のYLD全体のおよそ6分の1を占めています。
個別の病気で見ると、うつ病は世界のYLD原因の第2位、不安症は第6位にのぼります。世界保健機関(WHO)の推計では、およそ9億7,000万人(約10億人)が心の不調とともに生きているとされ、その数は近年、増加傾向にあります。つまり心の不調は、決して珍しいものではなく、誰の身にも起こりうる、ごくありふれたものなのです。
「命を奪う」より「暮らしを重くする」病
精神疾患の負担には、少し特徴があります。多くの病気は「命を落とす(亡くなる)」ことで負担が測られますが、精神疾患が直接の死因として記録されることは多くありません。代わりに、その負担の大部分は「障害とともに生きる時間(YLD)」――つまり、つらさを抱えながら日々を過ごす時間として現れます。
言いかえれば、心の不調は仕事や勉強、人づきあい、毎日の生活のしづらさとして、じわじわと重くのしかかります。命に直結しにくいぶん「たいしたことない」と見過ごされがちですが、生活の質への影響はとても大きいのです。しかも、こうした不調は10代の若い世代から多くみられます。だからこそ、早めに気づき、支援につながることに大きな意味があります。
ありふれているのに、多くの人が支援に届いていない
これほどありふれているにもかかわらず、必要な治療や支援を受けられていない人が、世界的にとても多いことも、研究から見えてきます。うつ病であっても、実際に治療にたどりつく人は一部にとどまる国が少なくありません。この「支援に届いていない差」を、治療ギャップと呼びます。
背景には、「心の弱さだと思われたくない」という偏見(スティグマ)や、「相談するほどのことではない」という遠慮、「どこに行けばいいのかわからない」という戸惑い、受診そのもののハードルの高さがあります。けれど大切なのは、心の不調は、和らげたり回復させたりできるものだということ。そして、早めに相談するほど、回復への道はゆるやかになりやすいのです。
受診のハードルを、少しでも低く
当院は、平日朝7時からの診療を通じて、「受診しやすいこと」を何より大切にしてきました。心の不調は、意志の弱さでも、あなたが特別だからでもありません。世界中の、たくさんの人が同じように抱えている、ごくありふれたものです。そして、ひとりで抱え込まなくてよいものです。
「これくらいで受診していいのかな」とためらう、その段階こそ、いちばん相談していただきたいタイミングです。数字は、あなたが決して一人ではないことを教えてくれます。つらさが続くときは、どうか気軽に声をかけてください。生活ごと、一緒に整えていきます。
精神疾患と健康損失についてのQ&A
精神疾患は、そんなに多いのですか?
「障害による健康損失(YLD)」とは何ですか?
心の不調は、放っておいても治りますか?
どのくらいの状態になったら、受診したほうがいいですか?
「相談するほどでもない」気がして、受診をためらいます。
心の病は「弱さ」や「甘え」なのでしょうか?
あなたは、一人ではありません
「これくらいで」と思うときこそ、ご相談を。
平日朝7時から、お仕事や学校の前に受診いただけます。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F / 地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556 / 平日 朝7時〜
主な参考文献(一次情報)
- GBD 2021 Diseases and Injuries Collaborators. Global incidence, prevalence, YLDs, DALYs, and HALE for 371 diseases and injuries, 1990–2021. The Lancet. 2024.(うつ病はYLD原因第2位、不安症は第6位)
- Global Burden of Disease 2021: mental health messages. The Lancet Psychiatry. 2024.
- 世界保健機関(WHO). World Mental Health Report ほか(世界で約9億7,000万人が精神疾患とともに生活)
- Moitra M, et al. The global gap in treatment coverage for major depressive disorder in 84 countries. PLoS Medicine. 2022.(治療ギャップ)
ご注意
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。引用した研究の推計には対象・方法上の限界があり、順位や割合は分析の枠組みによって異なることがあります。心の不調のあらわれ方や必要な対応は人によって異なります。気分の落ち込みや強い不安が続くとき、生活に支障が出ているときは、自己判断で抱え込まず、医療機関にご相談ください。つらいお気持ちが強いときは、早めに専門機関へのご相談をおすすめします。
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