自閉症の尿検査は実用化されたのか|バイオマーカー研究の現在地
「尿検査で自閉症が分かる」という報道をご覧になった方もいるかもしれません。2026年5月に発表された研究は確かに興味深いものですが、報じられ方と論文の中身には距離があります。何がどこまで示されたのかを、正確に見ていきます。
- 2026年5月の報告
- 研究段階の技術です
- 平日朝7時から受診できます
院長 前田 輝(まえだ あきら)
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)
SECTION 1「客観的な検査はないのですか」
発達の相談で来られた保護者の方から、この質問を受けることがあります。血液検査や画像検査で白黒つけられたら、どれほど楽だろうか。そう思われるお気持ちは、よく分かります。
現在、自閉スペクトラム症(ASD)の診断は、行動の観察と、生まれてからの発達の経過を丁寧にたどることによって行われます。単独で診断を確定できる血液検査も、脳の画像検査も、遺伝子検査もありません。
この方法には、時間がかかるという弱点があります。診断がつくまでに何度も受診が必要になり、支援の開始が遅れることがあります。また、評価する人によって判断が揺れる可能性も、完全には排除できません。だからこそ、客観的な指標(バイオマーカー)を見つけようという研究が、長年続けられてきました。
なお、注意の問題を主とする発達特性についてはこちらの記事で扱っています。
SECTION 22026年5月に報告された研究
2026年5月26日、米アリゾナ州立大学のJames Adams氏らの研究グループが、『Molecular Psychiatry』誌に論文を発表しました。腸内細菌が作り出す代謝物を尿の中で測ることで、自閉スペクトラム症の子どもを見分けられる可能性があるという内容です。
腸内細菌と精神疾患のかかわりについて研究の中身
この研究が着目したのは、微生物由来代謝物(MDM)と呼ばれる物質群です。腸内の細菌が食物などを分解する過程で生じる小さな分子で、p-クレゾール硫酸やインドキシル硫酸などが含まれます。一部の自閉スペクトラム症の子どもで、これらが尿中に多く含まれることは以前から報告されていました。
- 複数の施設で実施され、ASDの子ども52名と定型発達の子ども47名を比較しました
- 年齢は2歳から11歳です
- まず半定量的な液体クロマトグラフィー質量分析を行い、続いて標的を絞った定量分析を行いました
- ASD群では多くの代謝物の濃度が有意に高く、フェニルアラニン由来、トリプトファン由来、酵母由来のものが含まれていました
- とくに識別に寄与したのは、p-クレゾール、p-クレゾール硫酸、インドール-3-アクリロイルグリシン、フェニルアセチルグルタミン、アラビニトールなどでした
研究グループは、ひとつの物質だけを見るのではなく、定型発達の子どもの範囲を超える代謝物がいくつあるかを数えるという方法を採用しました。これをMDMシステムと呼んでいます。
感度90%、特異度100%という数字だけを見ると、非常に優れた検査に思えます。実際、報道の見出しはこの数字を中心に組み立てられました。ですが、ここには丁寧に読むべき点がいくつもあります。
SECTION 3この数字が意味すること、しないこと
この研究は症例対照研究と呼ばれる設計です。すでに自閉スペクトラム症と診断された子どもと、定型発達の子どもを集めて比較しています。この設計には、避けられない特徴があります。
とくに押さえておきたい4点
- 対照群が「発達に問題のない子ども」でした。実際の場面で見分けたいのは、自閉スペクトラム症の子どもと、注意の特性が主な子ども、知的発達症の子ども、言葉の遅れがある子どもなどとの区別です。その識別能力は、この研究では検証されていません。
- 感度は解析方法で変わりました。最初の解析では90%でしたが、定量的な検証解析では78%でした。つまり、5人に1人程度は見落とされる可能性があります。
- 規模が小さい研究です。合わせて99名という人数は、診断法の検証としては限られています。
- 個人差が大きいと報告されています。代謝物の上昇の程度には、子どもによってかなりのばらつきがありました。著者らは、子どもによって異なる微生物・代謝のパターンがある可能性を指摘しています。
著者ら自身、これが単独で使える診断検査ではないこと、より大規模で多様な集団での検証が必要であることを明確に述べています。想定されている使い方は、詳しい評価につなげるべき子どもを見分ける、いわば交通整理としての役割です。
SECTION 4日本で受けられるのか
2026年6月、米国でこの技術をもとにした検査サービスの提供が始まりました。自宅で採尿し、腸内細菌由来の代謝物を測定するというものです。
ただし、この検査は日本では利用できません。国内で承認された体外診断用医薬品でも、保険診療で行える検査でもありません。当院を含む国内の医療機関で受けることはできず、当院で取り扱う予定もありません。
診断は今も、行動と発達の経過から
バイオマーカー研究は今後も進むでしょうし、いずれ診療を変えるかもしれません。ただ現時点では、診断の中心は行動の観察と発達の経過にあります。この点は、報道でどれだけ新しい検査が取り上げられても変わりません。
そして、実務的にはこう考えています。診断名がつくかどうかよりも、その子が今どこで困っていて、何があれば楽になるのかを明らかにするほうが、生活はすぐに変わります。検査の結果を待つよりも、そちらのほうが早いのです。
SECTION 5気になることがあるときに
お子さんの発達について気になることがある場合、福岡市内には相談できる窓口があります。市の保健福祉センター、こども総合相談センター、地域の療育機関、小児科や児童精神科を標榜する医療機関などです。まずは身近な窓口にご相談いただくのが確実です。
大人になってから気づく場合もあります
一方、成人してから「自分にも発達の特性があるのではないか」と考えて受診される方も増えています。お子さんが診断を受けたことをきっかけに、ご自身の子ども時代を振り返る、という経過も少なくありません。
成人の場合も、診断の考え方は同じです。現在の困りごとと、子どもの頃からの経過の両方をうかがいます。通知表や母子健康手帳、当時をご存じのご家族からの情報があると、判断の精度が上がります。大人の発達特性についてはこちらの記事でも扱っています。
FAQよくあるご質問
尿検査で自閉症が分かるようになったのですか?
感度90%、特異度100%というのは、かなり正確ではないのですか?
腸内環境を整えれば、自閉症が改善しますか?
海外の検査を取り寄せて受けてみたいのですが。
子どもの発達が気になります。どこに相談すればよいですか?
大人になってから、自分の発達特性を調べることはできますか?
CONTACT発達特性について相談したいとき
「昔から集団になじめなかった」「こだわりが強くて仕事に支障が出る」「子どもが診断を受けて、自分にも思い当たることがある」。成人になってからそう感じて受診される方は少なくありません。当院では、現在の困りごとと子どもの頃からの経過をうかがい、必要な評価と工夫をご提案します。お子さんの発達に関するご相談は、地域の専門窓口をご案内しています。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556
平日は朝7時から診療しています
REFERENCES参考文献
- Flynn CK, Carr K, Whiteley P, et al. Elevated microbially-derived metabolites in autism: a possible diagnostic screening test for a distinct ASD phenotype. Mol Psychiatry. 2026. doi:10.1038/s41380-026-03620-5
https://www.nature.com/articles/s41380-026-03620-5 - Arizona State University News「New urine test provides simple way to screen for autism in children」(2026年5月26日)
https://news.asu.edu/20260526-health-and-medicine-new-urine-test-provides-simple-way-screen-autism-children - American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition.
- Centers for Disease Control and Prevention. Data and Statistics on Autism Spectrum Disorder.
https://www.cdc.gov/autism/data-research/index.html
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