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コラム

自閉症の尿検査は実用化されたのか|バイオマーカー研究の現在地

自閉症の尿検査は実用化されたのか|バイオマーカー研究の現在地|六本松こころのクリニック
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自閉症の尿検査は実用化されたのか|バイオマーカー研究の現在地

「尿検査で自閉症が分かる」という報道をご覧になった方もいるかもしれません。2026年5月に発表された研究は確かに興味深いものですが、報じられ方と論文の中身には距離があります。何がどこまで示されたのかを、正確に見ていきます。

  • 2026年5月の報告
  • 研究段階の技術です
  • 平日朝7時から受診できます
監修

院長 前田 輝(まえだ あきら)
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)

SECTION 1「客観的な検査はないのですか」

発達の相談で来られた保護者の方から、この質問を受けることがあります。血液検査や画像検査で白黒つけられたら、どれほど楽だろうか。そう思われるお気持ちは、よく分かります。

現在、自閉スペクトラム症(ASD)の診断は、行動の観察と、生まれてからの発達の経過を丁寧にたどることによって行われます。単独で診断を確定できる血液検査も、脳の画像検査も、遺伝子検査もありません。

この方法には、時間がかかるという弱点があります。診断がつくまでに何度も受診が必要になり、支援の開始が遅れることがあります。また、評価する人によって判断が揺れる可能性も、完全には排除できません。だからこそ、客観的な指標(バイオマーカー)を見つけようという研究が、長年続けられてきました。

図1 診断は何から成り立っているか 現在の診断は、複数の情報を突き合わせて行われます 行動の観察 対人的なやりとり 興味や行動の特徴 発達の経過 乳幼児期からの様子 母子手帳・通知表 生活への影響 園や学校での困りごと 家庭での様子 バイオマーカー(研究段階) 現時点では、上の3つを置き換えるものではなく、補う候補という位置づけです 単独で診断を確定できる血液検査・画像検査・遺伝子検査は、現在のところ存在しません。
図1|自閉スペクトラム症の診断過程を概念的に整理して作図。

なお、注意の問題を主とする発達特性についてはこちらの記事で扱っています。

SECTION 22026年5月に報告された研究

2026年5月26日、米アリゾナ州立大学のJames Adams氏らの研究グループが、『Molecular Psychiatry』誌に論文を発表しました。腸内細菌が作り出す代謝物を尿の中で測ることで、自閉スペクトラム症の子どもを見分けられる可能性があるという内容です。

腸内細菌と精神疾患のかかわりについて

研究の中身

この研究が着目したのは、微生物由来代謝物(MDM)と呼ばれる物質群です。腸内の細菌が食物などを分解する過程で生じる小さな分子で、p-クレゾール硫酸やインドキシル硫酸などが含まれます。一部の自閉スペクトラム症の子どもで、これらが尿中に多く含まれることは以前から報告されていました。

  • 複数の施設で実施され、ASDの子ども52名と定型発達の子ども47名を比較しました
  • 年齢は2歳から11歳です
  • まず半定量的な液体クロマトグラフィー質量分析を行い、続いて標的を絞った定量分析を行いました
  • ASD群では多くの代謝物の濃度が有意に高く、フェニルアラニン由来、トリプトファン由来、酵母由来のものが含まれていました
  • とくに識別に寄与したのは、p-クレゾール、p-クレゾール硫酸、インドール-3-アクリロイルグリシン、フェニルアセチルグルタミン、アラビニトールなどでした

研究グループは、ひとつの物質だけを見るのではなく、定型発達の子どもの範囲を超える代謝物がいくつあるかを数えるという方法を採用しました。これをMDMシステムと呼んでいます。

図2 研究の規模と報告された性能 2歳から11歳の子どもを対象とした多施設研究 ASDの子ども 52名 定型発達の子ども 47名 測定した代謝物 17種類 報告された性能 最初の解析 感度 90% 特異度 100% 定量的な検証解析 感度 78% 特異度 100% 感度は解析の方法によって変動しました。代謝物の上昇の程度には、個人差が大きいと報告されています。
図2|Flynn CK, et al. Elevated microbially-derived metabolites in autism: a possible diagnostic screening test for a distinct ASD phenotype. Mol Psychiatry. 2026. doi:10.1038/s41380-026-03620-5 の報告値をもとに作図。

感度90%、特異度100%という数字だけを見ると、非常に優れた検査に思えます。実際、報道の見出しはこの数字を中心に組み立てられました。ですが、ここには丁寧に読むべき点がいくつもあります。

SECTION 3この数字が意味すること、しないこと

この研究は症例対照研究と呼ばれる設計です。すでに自閉スペクトラム症と診断された子どもと、定型発達の子どもを集めて比較しています。この設計には、避けられない特徴があります。

図3 研究の場面と、実際の場面の違い 同じ検査でも、使う場面によって意味が変わります 研究で比べた集団 ・すでに診断がついた子ども ・発達に問題のない子ども ・両群がほぼ同数(52名と47名) ・条件がはっきり分かれている → 差が出やすい状況 実際に検査を使う場面 ・診断がまだついていない ・他の発達特性の子も混ざる ・大多数は該当しない子ども ・境界的なケースが多い → 性能は落ちるのが通例 該当する人が少ない集団で検査を使うと、陽性と出た人のうち実際に該当する人の割合は下がります。 研究で得られた数字が、そのまま実際の場面に当てはまるとは限りません。
図3|診断研究の一般的な限界を概念的に整理して作図。特定の検査の性能を示すものではありません。

とくに押さえておきたい4点

  • 対照群が「発達に問題のない子ども」でした。実際の場面で見分けたいのは、自閉スペクトラム症の子どもと、注意の特性が主な子ども、知的発達症の子ども、言葉の遅れがある子どもなどとの区別です。その識別能力は、この研究では検証されていません。
  • 感度は解析方法で変わりました。最初の解析では90%でしたが、定量的な検証解析では78%でした。つまり、5人に1人程度は見落とされる可能性があります。
  • 規模が小さい研究です。合わせて99名という人数は、診断法の検証としては限られています。
  • 個人差が大きいと報告されています。代謝物の上昇の程度には、子どもによってかなりのばらつきがありました。著者らは、子どもによって異なる微生物・代謝のパターンがある可能性を指摘しています。

著者ら自身、これが単独で使える診断検査ではないこと、より大規模で多様な集団での検証が必要であることを明確に述べています。想定されている使い方は、詳しい評価につなげるべき子どもを見分ける、いわば交通整理としての役割です。

新しい考え方として面白い点 この研究の意義は、検査の精度そのものよりも、腸内細菌の状態と関連する自閉スペクトラム症のサブタイプがあるかもしれないという仮説を提示したところにあると考えます。自閉スペクトラム症は非常に多様な状態の集まりで、原因もひとつではありません。生物学的な指標によって、その中の一群を切り出せるのであれば、研究の進め方も支援のあり方も変わってくる可能性があります。

SECTION 4日本で受けられるのか

2026年6月、米国でこの技術をもとにした検査サービスの提供が始まりました。自宅で採尿し、腸内細菌由来の代謝物を測定するというものです。

ただし、この検査は日本では利用できません。国内で承認された体外診断用医薬品でも、保険診療で行える検査でもありません。当院を含む国内の医療機関で受けることはできず、当院で取り扱う予定もありません。

海外の検査を個人で申し込むことについて 海外の検査サービスを個人で利用することには、いくつかの問題があります。結果の解釈を日本語で相談できる相手がいないこと、国内の診断・支援の制度と接続しないこと、そして何より、結果が出たあとにどうするかが決まっていないことです。「陽性」と出ても診断にはならず、「陰性」と出ても特性がないことにはなりません。どちらの結果であっても、結局は発達の評価を受けることになります。それであれば、最初から発達の相談をされるほうが確実です。

診断は今も、行動と発達の経過から

バイオマーカー研究は今後も進むでしょうし、いずれ診療を変えるかもしれません。ただ現時点では、診断の中心は行動の観察と発達の経過にあります。この点は、報道でどれだけ新しい検査が取り上げられても変わりません。

そして、実務的にはこう考えています。診断名がつくかどうかよりも、その子が今どこで困っていて、何があれば楽になるのかを明らかにするほうが、生活はすぐに変わります。検査の結果を待つよりも、そちらのほうが早いのです。

SECTION 5気になることがあるときに

お子さんの発達について気になることがある場合、福岡市内には相談できる窓口があります。市の保健福祉センター、こども総合相談センター、地域の療育機関、小児科や児童精神科を標榜する医療機関などです。まずは身近な窓口にご相談いただくのが確実です。

大人になってから気づく場合もあります

一方、成人してから「自分にも発達の特性があるのではないか」と考えて受診される方も増えています。お子さんが診断を受けたことをきっかけに、ご自身の子ども時代を振り返る、という経過も少なくありません。

成人の場合も、診断の考え方は同じです。現在の困りごとと、子どもの頃からの経過の両方をうかがいます。通知表や母子健康手帳、当時をご存じのご家族からの情報があると、判断の精度が上がります。大人の発達特性についてはこちらの記事でも扱っています。

診断がゴールではありません 診断名は、支援につなぐための道具です。ついたから何かが解決するわけでも、つかなかったから困りごとが消えるわけでもありません。大事なのは、どんな場面で何に困っていて、どう工夫すれば負担が減るのかを整理することです。そこは検査の有無にかかわらず、今日から取りかかれます。

FAQよくあるご質問

尿検査で自閉症が分かるようになったのですか?
診断がつくようになったわけではありません。2026年5月に発表された研究は、腸内細菌由来の代謝物を尿中で測ることで、詳しい評価につなげるべき子どもを見分けられる可能性を示したものです。著者ら自身が、単独で使える診断検査ではないこと、より大規模で多様な集団での検証が必要であることを述べています。現在も診断は、行動の観察と発達の経過にもとづいて行われます。
感度90%、特異度100%というのは、かなり正確ではないのですか?
その数字は、すでに診断がついた子どもと、発達に問題のない子どもを比べた条件で得られたものです。実際に検査を使う場面では、診断がまだついておらず、他の発達特性の子どもも混ざり、大多数は該当しない集団が対象になります。こうした集団では、性能が落ちるのが通例です。また、同じ研究の中でも、定量的な検証解析では感度が78%に下がっています。
腸内環境を整えれば、自閉症が改善しますか?
そうした結論は出ていません。今回の研究が示したのは、一部の子どもで腸内細菌由来の代謝物が高い、という関連です。関連があることと、それが原因であること、そして介入すれば改善することは、それぞれ別の問題です。腸内環境への介入によって発達特性が改善するかどうかは、現時点で確立されていません。食事療法やサプリメントを自己判断で試す前に、まずご相談ください。
海外の検査を取り寄せて受けてみたいのですが。
お勧めしません。結果の解釈を相談できる体制がないこと、国内の診断や支援の制度と接続しないことが主な理由です。加えて、陽性でも診断にはならず、陰性でも特性がないことにはなりません。どちらの結果でも、結局は発達の評価を受けることになります。それであれば、最初から発達の相談をされるほうが確実で、費用の面でも合理的です。
子どもの発達が気になります。どこに相談すればよいですか?
福岡市内には、市の保健福祉センター、こども総合相談センター、地域の療育機関など、発達についての相談窓口があります。小児科や児童精神科を標榜する医療機関でも相談できます。乳幼児健診の場で相談されるのも確実な方法です。まずは身近な窓口にご相談いただくのがよいと思います。当院は成人の診療を中心としていますので、お子さんの発達に関するご相談は、これらの窓口をご案内しています。
大人になってから、自分の発達特性を調べることはできますか?
できます。成人の場合も、現在の困りごとと子どもの頃からの経過をうかがい、診断基準に照らして評価します。通知表、母子健康手帳、当時をご存じのご家族からの情報があると、判断の精度が上がります。ただし、診断名がつくかどうかにかかわらず、いま何に困っているかを整理して対策を考えることのほうが、生活には直接効いてきます。診断を目的にせず、困りごとを起点にご相談いただければと思います。

CONTACT発達特性について相談したいとき

「昔から集団になじめなかった」「こだわりが強くて仕事に支障が出る」「子どもが診断を受けて、自分にも思い当たることがある」。成人になってからそう感じて受診される方は少なくありません。当院では、現在の困りごとと子どもの頃からの経過をうかがい、必要な評価と工夫をご提案します。お子さんの発達に関するご相談は、地域の専門窓口をご案内しています。

六本松こころのクリニック(心療内科・精神科)
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556
平日は朝7時から診療しています
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REFERENCES参考文献

  1. Flynn CK, Carr K, Whiteley P, et al. Elevated microbially-derived metabolites in autism: a possible diagnostic screening test for a distinct ASD phenotype. Mol Psychiatry. 2026. doi:10.1038/s41380-026-03620-5
    https://www.nature.com/articles/s41380-026-03620-5
  2. Arizona State University News「New urine test provides simple way to screen for autism in children」(2026年5月26日)
    https://news.asu.edu/20260526-health-and-medicine-new-urine-test-provides-simple-way-screen-autism-children
  3. American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition.
  4. Centers for Disease Control and Prevention. Data and Statistics on Autism Spectrum Disorder.
    https://www.cdc.gov/autism/data-research/index.html
本記事は、公表されている学術論文および研究機関の発表をもとに、一般的な医学情報の提供を目的として作成したものです。紹介した検査手法は研究段階にあり、日本国内で承認された検査ではありません。当院を含む国内の医療機関で受けることはできず、特定の検査の利用を推奨するものでもありません。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではなく、記事の内容によって診断が代替されるものでもありません。発達に関する心配がある場合は、自己判断や検査結果のみに頼らず、医療機関または地域の相談窓口にご相談ください。

心療内科・精神科/〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)
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