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コラム

ウロタロントとは|TAAR1という新しい標的と、開発の現在地

ウロタロントとは|TAAR1という新しい標的と、開発の現在地|六本松こころのクリニック
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ウロタロントとは|TAAR1という新しい標的と、開発の現在地

ドパミンにもセロトニン5-HT2Aにも結合しない、まったく別の受容体に働きかける薬。国内の製薬企業2社が開発してきたウロタロントは、そうした期待を集めてきました。ただし2023年、統合失調症を対象とした第3相試験は目標に届きませんでした。それでも開発は続いています。

  • TAAR1という新しい標的
  • 国内2社が共同開発
  • 平日朝7時から受診できます
監修

院長 前田 輝(まえだ あきら)
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)

SECTION 1ドパミンを標的にしない、という発想

統合失調症の薬物治療は、長らくドパミンD2受容体を遮断するという方針で進んできました。効果は確かにありますが、その作用は症状に関わる回路だけに限定できません。手のふるえや体のこわばりといった錐体外路症状、体重増加、プロラクチンの上昇。こうした副作用は、D2受容体を遮断するという仕組みそのものと切り離せない部分があります。

そこで、まったく別の入口から脳のはたらきを整えられないか、という研究が進められてきました。2024年に米国で承認されたムスカリン受容体に作用する薬もその流れのひとつですが、日本の製薬企業が取り組んできたのがTAAR1(微量アミン関連受容体1)という標的です。

ウロタロントという薬

ウロタロント(開発コード:SEP-363856)は、住友ファーマが創製し、大塚製薬と共同で開発が進められている経口薬です。セロトニン5-HT1A受容体への作動活性を併せ持つTAAR1アゴニストで、ドパミンD2受容体にもセロトニン5-HT2A受容体にも結合しないという特徴があります。

図1 標的とする受容体の違い ウロタロントはドパミンD2受容体に結合しません 従来の抗精神病薬 D2受容体を遮断する ・多くが5-HT2Aにも作用 ・錐体外路症状が起こりうる ・有効性は確立している ウロタロント(開発中) TAAR1と5-HT1Aに作動 ・D2にも5-HT2Aにも結合せず ・1日1回の経口投与を想定 ・有効性は検証の途上 ▶ TAAR1は微量アミン関連受容体1と呼ばれ、ドパミンなどの神経伝達を調節する役割があると考えられています。 ウロタロントは、統合失調症の第3相試験が実施された初めてのTAAR1アゴニストです。
図1|住友ファーマおよび大塚製薬のニュースリリースの記載をもとに作図。

D2受容体を遮断しないということは、理論上、D2遮断に由来する副作用が生じにくいということを意味します。この点が、大きな期待を集めた理由でした。

SECTION 22023年、第3相試験は目標に届かなかった

ウロタロントは2019年5月、統合失調症の適応で米国食品医薬品局からブレイクスルーセラピー指定を受けています。これは、既存の治療を大きく上回る改善が見込まれる薬に与えられる、審査を優先的に進めるための指定です。第2相試験の結果が良好だったことが背景にありました。

ところが2023年7月31日、住友ファーマと大塚製薬は次のように公表しました。急性期の統合失調症の患者さんを対象とした第3相試験であるDIAMOND 1試験とDIAMOND 2試験において、いずれの試験でも主要評価項目を達成しなかった、というものです。

  • DIAMOND 1試験は、多施設・ランダム化・二重盲検・並行群間・固定用量の試験でした
  • 急性期の統合失調症の成人435名を対象に、ウロタロント50mg/日と75mg/日をプラセボと6週間比較しました
  • DIAMOND 2試験も含め、いずれも主要評価項目を達成しませんでした
図2 開発の経過 開発企業が公表した主な出来事 2019年5月 統合失調症の適応でブレイクスルーセラピー指定 2023年7月 DIAMOND 1・2試験がいずれも主要評価項目を達成せず 2024年3月 2社が協議のうえ、開発を継続する方針を公表 現在 統合失調症・全般不安症などを対象に試験が進行中 開発中の医薬品であり、承認されるかどうか、いつ承認されるかは決まっていません。 開発が中止される可能性もあります。
図2|住友ファーマおよび大塚製薬のニュースリリース、ならびに大塚製薬の開発品目一覧の記載をもとに作図。
なぜ第2相と第3相で結果が違うのか 精神科領域では珍しくないことです。第2相試験は比較的少人数で、参加者の条件も絞られていることが多く、良い結果が出やすい傾向があります。第3相では規模が大きくなり、施設も国も増えるため、プラセボ群の改善が大きく出て差が縮まることがしばしば起こります。第2相の好結果がそのまま第3相で再現されるとは限らない、というのが精神科の新薬開発の現実です。

SECTION 3それでも開発が続いている理由

第3相試験が2本とも目標に届かなかった場合、開発が中止されることは珍しくありません。しかしウロタロントについては、2024年3月15日、2社は開発を継続する方針を公表しました。

公表された理由は次のようなものでした。統合失調症を対象とした2本の試験結果について米国食品医薬品局と会議を行い、概して前向きなフィードバックを得たこと。そして、進行中の大うつ病補助療法および全般不安症を対象とした第2/3相試験の進捗状況や市場性などを総合的に検討した結果、この薬のポテンシャルは依然として高いと判断したこと、です。

現在の開発状況

開発企業が公表している開発品目一覧によると、ウロタロントは現在、次のような段階にあります。

統合失調症日本・米国で第3相試験
全般不安症日本・米国で第2/3相試験
大うつ病補助療法開発対象として公表されている

全般不安症を対象とした試験は、TAAR1アゴニストとしては初めての試みです。抗不安薬としてはベンゾジアゼピン系薬剤が広く使われてきましたが、依存の問題があり、長期使用には慎重さが求められます。まったく別の仕組みで不安を和らげられるのであれば、意味のある選択肢になります。

開発中の薬について知っておいていただきたいこと 臨床試験が進んでいるということは、有効性や安全性が確認されたという意味ではありません。第3相試験まで進んだ薬が承認に至らないことは、精神科領域では実際にしばしば起こります。ウロタロントについても、承認されるかどうか、いつ承認されるかは決まっていません。この記事は開発状況の紹介であり、この薬の使用を推奨するものではありません。

SECTION 4新薬のニュースとの、ちょうどよい距離

診察室では、新薬の報道をご覧になった方から質問を受けることがあります。「その薬なら効くのではないか」「今の薬をやめて待ちたい」。お気持ちはよく分かります。

ただ、開発中の薬に期待を寄せすぎることには、いくつかの現実的な問題があります。

  • 承認に至らない可能性が相当にあります。第3相まで進んだ薬でも、目標に届かないことは実際に起きています。ウロタロント自身が、まさにその経験をしています。
  • 時期が読めません。仮に承認されるとしても、そこから薬価が決まり、実際に処方できるようになるまでにはさらに時間がかかります。
  • すべての方に適するとは限りません。新しい仕組みの薬が登場しても、その方に合うかどうかは別の問題です。
  • 待つあいだにも病気は進みます。統合失調症では、治療されない期間が長引くほど回復が難しくなることが知られています。
図3 処方できるようになるまでの道のり 臨床試験が進んでいることと、使えるようになることは別です 第1相 第2相 第3相 今ここ 承認申請 審査 薬価収載 第3相まで進んだ薬が承認に至らないことは、精神科領域では実際にしばしば起こります。 ウロタロント自身、統合失調症を対象とした第3相試験で目標に届かなかった経験があります。 図は制度上の流れを概念的に示したもので、所要期間や承認の可能性を表すものではありません。
図3|医薬品開発の一般的な流れを概念的に整理して作図。個別の医薬品の開発期間や承認可能性を示すものではありません。
それでも新薬の話に意味があるとすれば 「今の治療がすべてではない」と知っておけることだと思います。研究は確実に進んでいますし、10年前と今とでは選べる薬も違います。ただ、それは今の治療を止める理由にはなりません。今できる治療を続けながら、新しい選択肢が現実になるのを待つ。それが現実的な向き合い方だと考えています。

SECTION 5いま国内でできること

ウロタロントは開発中の薬であり、国内で処方を受けることはできません。当院でも取り扱いはありません。しかし、いま利用できる治療の中で、まだ試していない選択肢が残っていることは少なくありません。

副作用が理由で困っている場合

D2受容体の遮断に由来する副作用がつらいのであれば、同じ抗精神病薬でも受容体への作用の仕方が異なるものがあります。部分作動薬と呼ばれる種類の薬は、遮断一辺倒ではない働き方をします。剤形や投与間隔を変えることで負担が減る場合もあります。統合失調症の薬物治療の考え方についてはこちらの記事で扱っています。

効果が不十分だと感じている場合

この場合も、確認すべきことがあります。用量が十分か、服用が続けられているか、他の疾患が重なっていないか。そして、複数の薬を試しても十分な効果が得られないときには、また別の選択肢が検討されます。「これ以上は打つ手がない」と決まってしまうことは、実際にはあまりありません。

ご家族の立場から

ご本人が受診を望まない、薬を飲みたがらないというご相談も多くいただきます。新薬の話を持ちかけることで受診につながる場合もありますが、承認されていない薬を期待させてしまうと、後で失望を招きます。まずはご家族だけでご相談いただき、どう関わるかを一緒に考えるところから始められます。

FAQよくあるご質問

ウロタロントは日本で使えますか?
使えません。開発中の薬であり、国内でも海外でも承認されていません。現在、統合失調症を対象とした第3相試験、全般不安症を対象とした第2/3相試験などが日本と米国で進められている段階です。承認されるかどうか、いつ承認されるかは決まっていません。
第3相試験が失敗したのに、なぜ開発が続いているのですか?
開発企業は2024年3月、開発を継続する方針を公表しました。理由として、統合失調症を対象とした2本の試験結果について米国食品医薬品局と会議を行い、概して前向きなフィードバックを得たこと、そして進行中の大うつ病補助療法および全般不安症を対象とした試験の進捗状況や市場性などを総合的に検討した結果、この薬のポテンシャルは依然として高いと判断したことが挙げられています。統合失調症で目標に届かなかったことと、他の疾患で有用でないこととは、別の問題だという判断です。
治験に参加することはできますか?
治験は、実施している医療機関でのみ参加できます。参加には年齢、診断、症状の程度、併存疾患、服用中の薬など、細かな条件が定められており、希望すれば必ず参加できるというものではありません。また、参加した場合でもプラセボが割り当てられる可能性があります。関心がある場合は、まず主治医にご相談ください。国立保健医療科学院の臨床研究情報ポータルサイトなどで、実施中の治験を調べることもできます。
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬をやめたいのですが、この薬を待つべきですか?
待つ必要はありません。ベンゾジアゼピン系薬剤の減量は、開発中の薬を待たなくても取り組めます。ただし、急にやめると離脱症状が生じるため、時間をかけて段階的に減らしていくことが原則です。不安症に対しては、抗うつ薬による治療や認知行動療法など、現在利用できる選択肢もあります。減らしたいというご希望があれば、その時点で主治医にお伝えください。自己判断での中断は避けてください。
米国で承認された新しい統合失調症の薬とは、どう違うのですか?
どちらもドパミンD2受容体を遮断しないという共通点がありますが、標的が異なります。2024年に米国で承認された薬はムスカリンM1・M4受容体に作用するのに対し、ウロタロントはTAAR1とセロトニン5-HT1A受容体に作用します。また、前者はすでに米国で承認されているのに対し、ウロタロントは開発段階にあります。
新しい薬が出るまで、今の薬を減らして待ちたいのですが。
お勧めできません。開発中の薬が承認されるかどうかは決まっておらず、時期も見通せないためです。そして統合失調症では、治療を中断した時期が再発の引き金になりやすいことが繰り返し確認されています。いったん再発すると、元の状態まで戻るのに時間がかかります。今の治療に不満がある場合は、やめる方向ではなく、変更や調整の相談としてお持ちいただければと思います。

CONTACT治療の選択肢を整理したいとき

「今の薬が合っていない気がする」「副作用がつらい」「効果が足りない」。そうした行き詰まりは、まだ試していない選択肢がある合図かもしれません。当院では、これまでの経過と副作用の出方をうかがったうえで、いま国内で利用できる範囲の中から選択肢を整理してご提案します。ご家族だけのご相談も承っています。

六本松こころのクリニック(心療内科・精神科)
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556
平日は朝7時から診療しています
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REFERENCES参考文献

  1. 住友ファーマ株式会社・大塚製薬株式会社「ulotarontの統合失調症を対象としたフェーズ3試験(DIAMOND 1試験およびDIAMOND 2試験)の解析結果の速報について」(2023年7月31日)
    https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20230731-1.html
  2. 大塚製薬株式会社「住友ファーマとのライセンス契約改定について」(2024年3月15日)
    https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2024/20240315_1.html
  3. 住友ファーマ株式会社「精神神経領域で開発中のウロタロントを含む4つの新薬候補化合物について全世界を対象とした開発および販売提携に関するライセンス契約改定のお知らせ」(2024年3月15日)
    https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20240315.html
  4. 大塚製薬株式会社「開発品目一覧」
    https://www.otsuka.co.jp/research-and-development/pipeline/
  5. Yang SM, Ghoshal A, Hubbard JM, et al. TAAR1 agonist ulotaront modulates striatal and hippocampal glutamate function in a state-dependent manner. Neuropsychopharmacology. 2024;49(3):600-611. doi:10.1038/s41386-023-01779-x
本記事は、製薬企業が公表した情報および学術論文をもとに、一般的な医学情報の提供を目的として作成したものです。記事中で扱っている化合物は開発段階にあり、国内外で承認されていません。当院を含む国内の医療機関で処方を受けることはできず、今後承認される保証もありません。特定の医薬品の使用を推奨するものではなく、個々の患者さんの診断・治療方針を示すものでもありません。現在服用中のお薬を自己判断で中止・減量することは、症状の再燃や離脱に伴う症状につながるおそれがあります。治療についてのご判断は、必ず主治医にご相談ください。

心療内科・精神科/〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)
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