デエビゴと睡眠時無呼吸症候群
「悪化させない」との
報告を正しく読む
「無呼吸があると、睡眠薬は使えないのでは?」――そう心配される方は少なくありません。新しいタイプの睡眠薬デエビゴ(レンボレキサント)について、睡眠時無呼吸症候群を悪化させないという研究が報告されています。その内容を、精神科専門医が正確に、ていねいに解説します。
「無呼吸があると、睡眠薬は使えない?」という不安
「いびきがひどい」「睡眠時無呼吸症候群があると言われた」――そんな方が不眠にも悩んでいるとき、多くの人が「自分は睡眠薬を使えないのでは」と不安になります。実際、従来のベンゾジアゼピン系の睡眠薬には、呼吸の働きを抑えて無呼吸を悪化させうるものがあり、慎重な扱いが必要でした。
そうしたなかで、新しいタイプの睡眠薬デエビゴ(レンボレキサント)と睡眠時無呼吸症候群の関係を調べた研究が報告され、「悪化させなかった」という結果が示されています。この記事では、その内容を正確にお伝えするとともに、「悪化させない」と「治す」の違いや、注意しておきたい点も、誠実に解説します。
呼吸の指標が、プラセボと変わらなかった
デエビゴは、脳の「覚醒を保つ」働きをやさしく弱めて自然な眠りを促す、オレキシン受容体拮抗薬という種類の睡眠薬です。研究では、中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群がある方を対象に、デエビゴと偽薬(プラセボ)を飲んだときの呼吸の状態を比べました。
その結果、無呼吸の程度を示す指標(AHI=1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)にも、血液中の酸素の値(酸素飽和度)にも、デエビゴと偽薬とではっきりした差はありませんでした。無呼吸の重症度で分けても同じで、酸素が下がっている時間の割合にも差はありませんでした。軽症の無呼吸や、呼吸の病気であるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)を対象にした研究でも、同様に呼吸を悪化させないことが示されています。
「悪化させない」は「治す」ではありません
ここはとても大切なところです。今回わかったのは、あくまで「デエビゴが睡眠時無呼吸症候群を“悪化させない”」ということであり、「無呼吸を治す・改善する」わけではありません。図でも、無呼吸の回数そのものは飲んでも高いまま(=無呼吸は残ったまま)です。睡眠時無呼吸症候群には、CPAP(持続陽圧呼吸療法)やマウスピース、生活改善など、それ専用の治療が別に必要です。睡眠薬はその代わりにはなりません。
また、これらの研究は比較的少人数・短期間(8夜ほど)のもので、すべての方・あらゆる状況に当てはまると言い切れるわけではありません。とはいえ、「呼吸を抑えうる従来の睡眠薬」と比べて、呼吸への影響が少ないことが確かめられた意義は大きく、無呼吸のある方の不眠治療の選択肢を広げるものといえます。
なぜ「睡眠薬=無呼吸に危険」と言われてきたのか
これまで「無呼吸の人に睡眠薬は要注意」と言われてきたのには理由があります。ベンゾジアゼピン系と呼ばれる従来型の睡眠薬・抗不安薬には、筋肉をゆるめたり呼吸の働きを抑えたりする作用があり、のどの気道が狭まりやすい無呼吸の方では、症状を悪化させるおそれがあったのです。
一方、デエビゴのようなオレキシン受容体拮抗薬は、「覚醒を保つ仕組みをやさしく弱める」という異なる働き方をします。研究では、この違いが呼吸への負担の少なさにつながっている可能性が示されました。ただし、これは「無呼吸のある人は誰でもデエビゴなら安心」という意味ではなく、あくまで医師が一人ひとりの状態を見て判断するための材料です。
「眠れない」も「いびき・無呼吸」も、まず相談を
不眠と睡眠時無呼吸症候群は、重なって起こることがよくあります。「よく眠れない」と感じている背景に、実は無呼吸が隠れていることも少なくありません。当院では、睡眠薬を使うかどうかを含め、その方の状態に合わせて、無理のない睡眠の整え方を一緒に考えます。無呼吸が疑われる場合には、専門的な検査・治療(CPAPなど)ができる医療機関との連携もご案内します。
なお、オレキシン受容体拮抗薬には「悪夢」などの副作用が知られており、その起こりやすさについては別の記事でも解説しています。お薬にはよい面と注意点の両方があります。自己判断ではなく、一緒に選んでいく——それがいちばん安心です。眠りのことで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
デエビゴと睡眠時無呼吸症候群についてのQ&A
睡眠時無呼吸症候群があっても、デエビゴは使えますか?
デエビゴを飲めば、無呼吸そのものも良くなりますか?
どうして従来の睡眠薬は無呼吸に注意が必要だったのですか?
この研究は、どれくらい信頼できるものですか?
CPAPを使っています。デエビゴを併用してもいいですか?
いびきがひどいのですが、眠りが浅いのは無呼吸のせいでしょうか?
眠りの悩みは、一人で抱え込まないで
「眠れない」も「いびき・無呼吸」も、まずはご相談を。
平日朝7時から、お仕事や学校の前に受診いただけます。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F / 地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556 / 平日 朝7時〜
主な参考文献(一次情報)
- Cheng JY, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover study of respiratory safety of lemborexant in moderate to severe obstructive sleep apnea(Study 113; NCT04647383). Journal of Clinical Sleep Medicine. 2024.
- レンボレキサント(デエビゴ)添付文書/軽症OSAにおける呼吸安全性データ(SLEEP 2019 発表)
- Cheng JY, et al. Respiratory safety of lemborexant in adult and elderly subjects with moderate-to-severe chronic obstructive pulmonary disease(COPD). Journal of Sleep Research. 2025.
ご注意
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。引用した研究は比較的少人数・短期間のもので、すべての方に一律に当てはまるものではありません。「悪化させない」という結果は「無呼吸を治す」ことを意味しません。睡眠時無呼吸症候群の診断・治療(CPAP等)は専門の医療機関の領域です。お薬の開始・変更・中止は、必ず主治医の指示のもとで行ってください。自己判断での使用は避け、眠りやいびき・無呼吸について不安があるときは、医療機関にご相談ください。
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