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コラム

精神科の薬と心臓の健康──「薬・生活習慣・遺伝」の3つを統合解析した最新研究を精神科医が解説|六本松こころのクリニック

精神科の薬と心臓の健康──「薬・生活習慣・遺伝」の3つを統合解析した最新研究を精神科医が解説|六本松こころのクリニック
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最新トピックス

精神科の薬と
心臓の健康
「薬・生活習慣・遺伝」の
3つを統合解析した最新研究

― Nature Mental Health 2026年5月発表・UKバイオバンク大規模解析 ―

監修:前田 輝(精神保健指定医・日本専門医機構認定 精神科専門医)
公開日:2026年5月 / カテゴリ:最新トピックス
「精神科の薬を飲んでいると、体に悪いのではないか」「ずっと服用していて、心臓は大丈夫だろうか」──長期通院されている患者さんやそのご家族から、しばしば寄せられるご質問です。
2026年5月、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJurjen J. Luykx教授らの研究チームが、英国UKバイオバンクの大規模データを用いて、向精神薬・生活習慣・遺伝的要因の3つがどう組み合わさって心血管リスクを高めるかを解析した重要な論文を Nature Mental Health 誌に発表しました1)。本記事では、この研究の結果と、長期通院患者さんが実践できる「心臓を守るためにできること」を、精神科専門医が誠実に解説します。

「精神疾患のある人は心血管疾患が多い」という事実

精神医学・公衆衛生の分野で、長年知られている事実があります。うつ病・双極性障害・統合失調症などの精神疾患のある方は、一般人口と比べて心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中など)を発症するリスクが約1.5倍高いと報告されています2)。さらに、平均寿命が10〜15年短いという衝撃的なデータもあります。

では、その原因は「精神科の薬」なのでしょうか? 答えは──「薬だけでなく、複数の要因が絡み合っている」というのが正確です。

心血管リスクを上げる主な要因
  • 不健康な生活習慣(喫煙・運動不足・偏った食事)
  • うつ・不安・統合失調症による活動性の低下
  • 一部の向精神薬による代謝への影響(体重増加・脂質・血糖)
  • 遺伝的素因(肥満になりやすい遺伝子型など)
  • 社会経済的不利(健康診断や治療への接近性の低下)

2026年5月発表──「3つのリスクが重なると最大」を実証

2026年5月、Jurjen J. Luykx教授らの研究チームが、英国UKバイオバンクの大規模データを解析した論文を Nature Mental Health 誌に発表しました1)。この研究の革新性は、「向精神薬」「生活習慣」「遺伝的素因」の3つを統合的に解析した点にあります。

研究デザイン大規模コホート研究(UKバイオバンク)
対象者40〜69歳の英国成人(数十万人規模)
主な解析項目向精神薬使用の有無 × 生活習慣(食事・運動・喫煙) × 高BMIの多遺伝子リスクスコア(PGS-BMI)
主要評価項目BMI(肥満度)と心血管疾患(CVD)発症リスク

研究で明らかになったこと

UKバイオバンクの大規模解析の結果、以下のことが示されました1)

  1. 向精神薬を使用している人は、使用していない人と比べてBMIが高くなる傾向がある
  2. これは、不健康な生活習慣と「肥満になりやすい遺伝的素因」が重なっている人で特に顕著だった
  3. これら3つの要因(薬剤・生活習慣・遺伝)が重なる人は、BMI上昇と心血管疾患リスクが最大になっていた
  4. 一方で、向精神薬を使用していても、健康的な生活習慣を維持できれば、リスクは大きく抑えられた
リスクの重なりが心血管疾患リスクを高める(概念図)
向精神薬 使用 不健康な 生活習慣 高BMIの 遺伝的素因 最大の CVDリスク
de Boer N, Luykx JJ, et al. Nature Mental Health. 2026 の知見を模式的に表現

重要なメッセージ──「薬のせい」ではなく、「組み合わせ」が問題

この研究の最も重要なメッセージは、「向精神薬だけが心血管リスクの原因ではない」ということです。薬だけ取り上げて怖がるのは正しい理解ではありません。

むしろ、向精神薬を使用している方は、生活習慣の改善によって心血管リスクを大きく減らせる可能性があることを示した、希望ある研究といえます。

どの向精神薬が、どんな影響を与えるのか

すべての向精神薬が同じように体重・代謝に影響するわけではありません。日本うつ病学会のガイドライン3)や、複数のメタアナリシスから明らかになっている代謝への影響を、簡潔に整理します。

体重増加・代謝への影響が比較的大きい薬剤

  • 一部の抗精神病薬:オランザピン、クロザピン、クエチアピンなど
  • 一部の気分安定薬:バルプロ酸、リチウム(一部の患者)
  • 一部の抗うつ薬:ミルタザピン、三環系抗うつ薬(アミトリプチリンなど)

体重増加・代謝への影響が比較的小さい薬剤

  • 多くのSSRI(フルボキサミン、エスシタロプラム、セルトラリン、パロキセチンなど)
  • SNRI(デュロキセチン、ベンラファキシンなど)
  • 新規の抗精神病薬の一部(アリピプラゾール、ブレクスピプラゾールなど)
⚠️ ご注意

上記はあくまで「平均的な傾向」です。同じ薬でも個人差は大きく、また「体重への影響が小さい」薬が必ずしも全員に向くわけではありません。精神症状への効果・他の副作用・併用薬との相互作用を総合的に判断する必要があります。
自己判断で薬を中止・減量することは絶対に避けてください。精神症状の急激な悪化や離脱症状を招くリスクがあります。気になる場合は必ず主治医にご相談ください。

長期通院患者さんが心血管を守るためにできること

この研究を踏まえて、長期に向精神薬を服用されている方が、ご自身でできる具体的な対策を整理します。

① 定期的な健康診断・血液検査を欠かさない

体重、腹囲、血圧、空腹時血糖、HbA1c、脂質(中性脂肪・LDL・HDL)──これらは年に1〜2回、必ず測定しましょう。職場の健康診断や自治体の特定健診で十分カバーできます。「精神科に通っているから、内科にはあまり…」と遠慮する必要はありません。むしろ精神科通院中の方こそ、定期的な内科チェックが重要です。

② 生活習慣の3本柱──食事・運動・睡眠

  • 食事:加工食品・甘いジュース・揚げ物を減らし、野菜・魚・全粒穀物を増やす。地中海食パターンが推奨
  • 運動:週150分以上の中強度有酸素運動(早歩き・自転車・水泳)、加えて週2回の筋トレ
  • 睡眠:6〜8時間、規則正しいリズムを保つ

運動にはうつ症状自体を軽減する効果もあることが多くの研究で示されています4)。「心臓のために」だけでなく「メンタルのために」も運動は強力な味方です。

③ 禁煙・節酒

喫煙は心血管リスクの最も強い修正可能因子の一つです。禁煙外来や禁煙補助薬(バレニクリン・ニコチンパッチ)を活用しましょう。禁煙によりうつ症状が悪化することは、長期的にはほぼないことがメタアナリシスで示されています5)

④ 主治医との定期的な見直し

長く同じ薬を続けていると、見直しの機会が減りがちです。年に1回程度は、主治医と「今の薬は本当に必要か、量は適切か、副作用は許容範囲か」を話し合いましょう。症状が安定していれば、減量・変更を検討する余地があるかもしれません。ただし、これも主治医との相談のもとで行うことが重要です。

💡 この記事のまとめ
  1. 精神疾患のある方は心血管疾患リスクが高いが、原因は薬・生活習慣・遺伝的素因の複合であり、薬単独ではない
  2. 2026年5月発表の Nature Mental Health 論文は、UKバイオバンクの大規模データで「3つのリスクが重なると最大」を実証。一方、生活習慣の改善でリスクは大きく下がる
  3. 長期通院患者ができる対策は4つ──定期検診・健康的な生活習慣・禁煙節酒・主治医との定期的な治療見直し
ここちゃんからのメッセージ

「薬を飲んでいる」ことを必要以上に怖がらないでね

向精神薬は、心の症状を抑えるために本当に必要な薬。それを自己判断で中断したら、もっと大きな代償を払うことになるよ。

大事なのは、薬を飲みながら体の健康も守ること。年1回の健診、ちょっとした運動、野菜の多い食事──こうした小さな積み重ねが、長い人生で大きな差になるの。怖がるんじゃなくて、できることから始めようね。

当院でのご相談について

「長く薬を飲んでいて体への影響が心配」「体重が増えてきた・血液検査の数値が気になる」「症状は落ち着いてきたので、薬の量や種類を見直したい」──こうしたお悩みは、患者さんの心と体の両方を考えて治療を組み立てる、当院の最も大切な役割の一つです。

当院は福岡市中央区六本松にて、働く方・学ぶ方のための心療内科・精神科を運営しております。お薬の見直しや、生活習慣の改善のサポートも、丁寧にお話を伺いながら行います。平日朝7時からの早朝診療にも対応しており、出勤前のご受診が可能です。完全防音個室・WEB予約・WEB問診を導入しており、プライバシーに配慮した環境で安心してご相談いただけます。

お薬の見直し・生活習慣のご相談

WEB予約・WEB問診は24時間受付中です
平日朝7時からの早朝診療にも対応しております

📚 出典・参考文献

  1. de Boer N, …, Luykx JJ. Psychotropic medication use, unhealthy lifestyle behaviors, and polygenic risk for high body mass index in relation to cardiovascular disease in individuals with mental illness. Nature Mental Health. 2026 (Early Online Publication).
  2. Correll CU, et al. Prevalence, incidence and mortality from cardiovascular disease in patients with pooled and specific severe mental illness: a large-scale meta-analysis of 3,211,768 patients and 113,383,368 controls. World Psychiatry. 2017;16(2):163-180.
  3. 日本うつ病学会 治療ガイドライン II. 大うつ病性障害 2024年
  4. Schuch FB, et al. Physical activity and incident depression: a meta-analysis of prospective cohort studies. Am J Psychiatry. 2018;175(7):631-648.
  5. Taylor G, et al. Change in mental health after smoking cessation: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2014;348:g1151.
  6. 厚生労働省 e-ヘルスネット「精神疾患と身体疾患の関連」
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線 六本松駅 徒歩2分 / TEL: 092-401-4556
院長:前田 輝(精神保健指定医・精神科専門医)
https://ropponmatsukokoro.com/

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