シロシビン療法とは?
治療抵抗性うつ病への「サイケデリック医療」の今と日本での注意点
複数の治療でも良くならない「治療抵抗性うつ病」への新しい選択肢として、世界が注目するシロシビン療法。その最新の研究成果を精神科専門医が解説します。あわせて、日本では違法・未承認であるという大切な前提と、いま国内で受けられる確かな選択肢もお伝えします。
世界が注目する治療、でも日本では――
うつ病の治療は年々進歩していますが、いくつものお薬を試しても十分に良くならない「治療抵抗性うつ病(TRD)」に悩む方は少なくありません。そうした方への新しい選択肢として、いま世界で大きく注目されているのが、マジックマッシュルームの成分「シロシビン」を用いたシロシビン療法です。
2025年から2026年にかけて、大規模な臨床試験(Phase3)で有望な結果が報告され、国内外のニュースでも取り上げられました。ただ、最初にはっきりお伝えしなければならないことがあります。シロシビンは日本では麻薬に指定されており、治療としての使用は認められていません(未承認・違法)。この記事は最新の科学の動きを正確にお伝えするためのもので、使用や入手を勧めるものでは一切ありません。
Phase3試験「COMP360」が示した成果
注目されているのは、コンパス・パスウェイズ社が開発する合成シロシビン「COMP360」です。治療抵抗性うつ病を対象に、2つの大規模なPhase3試験(COMP005・COMP006)が行われ、いずれも主要評価項目(うつ症状の尺度MADRSの変化)を達成しました。合成シロシビンとしても、古典的なサイケデリック(幻覚剤)としても、Phase3で有効性データが示されたのは史上初とされています。
COMP005では、1回の25mg投与がプラセボ(偽薬)に比べてうつ症状を有意に軽減し、投与の翌日から効果が現れ、反応した人ではその効果が26週まで続いたと報告されました。COMP006でも、同様に有意で臨床的に意味のある改善が示されています。安全性については、両試験とも主に投与当日に起こる軽度〜中等度の副作用が中心で、予期しない重大な問題は報告されていません。
「夢の万能薬」ではありません
有望な結果ですが、冷静に見ておきたい点があります。まず効果の大きさは控えめで、「臨床的に意味のある改善(うつ症状が25%以上軽減)」に達した人は、COMP005で約25%、COMP006で約39%でした。つまり効果があったのは一部の方で、大多数がこの基準に達したわけではありません。「1回飲めば必ず治る薬」ではないのです。
もう一つ大切なのは、シロシビン療法は「薬を飲むだけ」の治療ではないということ。訓練を受けたスタッフが付き添い、管理された環境で、心理的なサポートと組み合わせて行われる「シロシビン“併用”療法」です。市販薬のように自宅で服用するものではありません。また、こうした幻覚作用のある薬の試験では、本人が「本物を使った」と気づきやすく、効果が実際より大きく見えてしまう可能性(盲検の難しさ)も、研究者が課題として認識しています。
日本では違法・未承認 ― そして海外でもまだ承認前
くり返しになりますが、日本ではシロシビン・シロシンは2002年から麻薬として規制されています。輸入・所持・使用・栽培・広告などはいずれも法律違反で、使用や所持には重い罰則(営利目的でない場合でも7年以下の懲役)が定められています。研究目的での取り扱いも、国の免許を持つ限られた研究者にしか認められていません。
さらに知っておきたいのは、世界のどこでも“承認された薬”として使えるわけではないということ。開発が最も進むアメリカでも、現時点では規制当局の審査を受ける前の段階で、承認に向けた申請が予定されているところです(2026年後半に申請予定)。つまり、有望ではあっても、まだ正式な治療薬として確立したわけではありません。
治療抵抗性うつでも、諦める必要はありません
「いろいろ試したのに良くならない」――そんなときも、日本で合法的に受けられる、エビデンスのある選択肢があります。お薬の見直しや増強療法、認知行動療法などの精神療法、そして薬だけに頼らない治療として、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激療法)や修正型電気けいれん療法(mECT)といった方法もあります。当院ではrTMSについても別記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
新しい治療の動向は、私たちも希望を持って見守っています。ただ、いま大切なのは「今できることをする」こと。あなたの状態に合った、確かで安全な治療を一緒に探していきます。うつの症状が長く続いてつらいときは、どうか一人で抱え込まず、ご相談ください。
シロシビン療法についてのQ&A
シロシビン療法は、日本で受けられますか?
海外なら受けられますか? 渡航してでも受けるべきでしょうか?
マジックマッシュルームを自分で試すのはどうですか?
シロシビン療法は、うつを「治す」のですか?
いろいろな薬を試しても良くなりません。他に方法はありますか?
いつか日本でも使えるようになりますか?
「良くならない」を、一人で抱え込まないで
治療抵抗性うつでも、合法で確かな選択肢があります。
平日朝7時から、お仕事や学校の前に受診いただけます。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F / 地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556 / 平日 朝7時〜
主な参考文献(一次情報)
- Compass Pathways plc. Successfully Achieves Primary Endpoint in First Phase 3 Trial Evaluating COMP360 Psilocybin for TRD(COMP005). 2025.
- Compass Pathways plc. Successfully Achieves Primary Endpoint in Second Phase 3 Trial Evaluating COMP360 Psilocybin for TRD(COMP006). 2026.
- 厚生労働省「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」/医薬発第507001号(2002)ほか(シロシビン・シロシンの規制)
- 麻薬及び向精神薬取締法(マジックマッシュルームの規制・罰則)
ご注意
本記事は、海外で進む治療研究について一般的な情報をお伝えするもので、違法薬物の使用・入手・栽培や、海外での使用(渡航治療)を推奨する意図は一切ありません。シロシビンは日本では麻薬に指定されており、その使用・所持等は法律で禁じられています。記載した研究結果には対象・方法上の限界があり、有効性・安全性が確立した治療を示すものではありません。うつの症状やお薬について不安があるときは、自己判断で対処せず、主治医または医療機関にご相談ください。気分の落ち込みや強い不安が続くときは、早めに専門機関へのご相談をおすすめします。
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