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コラム

測定に基づく診療とは|うつ病の回復を数値で確かめる

測定に基づく診療とは|うつ病の回復を数値で確かめる|六本松こころのクリニック
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測定に基づく診療とは|うつ病の回復を数値で確かめる

「良くなっているのかどうか、自分でも分からない」。うつ病の治療を続けている方から、よくうかがう言葉です。感覚だけに頼らず、評価尺度を使って症状を定量的に測りながら治療を進める。この考え方が、2025年12月に公開された新しい診療ガイドラインで大きく取り上げられました。

  • ガイドライン2025の柱のひとつ
  • 寛解率に差が出た研究も
  • 平日朝7時から受診できます
監修

院長 前田 輝(まえだ あきら)
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)

SECTION 1「良くなっているか分からない」という不安

うつ病の回復は、直線的には進みません。良い日と悪い日が混ざりながら、少しずつ底が上がっていきます。ところが、この「少しずつ」が本人には見えにくいのです。調子の悪い日に診察が当たれば「何も変わっていない」と感じますし、人は数週間前の自分の状態を正確には思い出せません。

診察でも同じことが起こります。「どうですか」「まあ、あまり変わりません」というやりとりが毎回続くと、実際には改善しているのに治療方針を変えるべきかどうかの判断が難しくなります。逆に、良くなっていないのに漫然と同じ治療が続いてしまうこともあります。

測定に基づく診療という考え方

この問題に対して提案されているのが、測定に基づく診療(Measurement-Based Care、以下MBC)です。標準化された評価尺度を使って症状を定期的に数値化し、その結果を患者さんと共有しながら治療を調整していく方法を指します。

やっていることは、実はそれほど特別ではありません。血圧の薬を飲んでいる方が毎回血圧を測るのと、発想は同じです。数字があれば、前回と比べられます。効いているのか、量が足りないのか、方針を変えるべきかを、印象ではなく変化量で判断できるようになります。

数値化するのは何のためか 点数を取ることが目的ではありません。目的は、治療がうまくいっていないときに「うまくいっていない」と早く気づき、手を打つことです。逆に、良くなっているのに本人が実感できていないときに、それを見える形にすることでもあります。

SECTION 2ガイドライン2025が掲げた3つの言葉

日本うつ病学会は2025年12月25日、『うつ病診療ガイドライン2025』を公開しました。2016年版から約250ページ増という大幅な改訂で、日本医療機能評価機構のMinds診療ガイドライン作成マニュアルに沿って、ゼロベースで再構築されています。

作成に携わった関西医科大学の加藤正樹氏は、この改訂を貫くキーワードとして3つを挙げています。

患者中心の医療Patient-Centered Care。「何を処方するか」ではなく「目の前の患者にとって最善の治療は何か」を考える。
共有意思決定Shared Decision Making(SDM)。治療方針を医師が決めるのではなく、患者さんと話し合って決める。
測定に基づく診療Measurement-Based Care(MBC)。症状を定量的に評価しながら治療を進める。

注目したいのは、MBCとSDMがセットで語られている点です。話し合って決めるといっても、共有できる材料がなければ議論は印象論になります。数値は、患者さんと医師が同じものを見て話すための土台として位置づけられているわけです。

このガイドラインは、精神科医だけでなく、薬剤師、看護師、心理職、さらに患者さんやご家族も作成に参加しています。「医療者のためのガイドライン」から「患者と医療者が一緒に活用するガイドライン」への変化だと、加藤氏は述べています。

どの尺度を、どれくらいの頻度で使うか

ガイドラインの統括を務めた杏林大学の渡邊衡一郎氏は、実践にあたっての目安として次のように述べています。

  • 評価の頻度——寛解を達成するまでは、できるだけ毎回、少なくとも2週間に1回は評価するのが望ましい
  • 使う尺度——自己記入式のものとして、QIDSやPHQ-9が推奨される
  • これらの利点——うつ病の診断基準に対応した9項目で構成されており、残っている症状を拾い上げやすい

加藤氏は、自己記入式を使う意義について、患者さん自身の自己洞察や意思決定を促進すること、症状の伝え漏れを防げることを挙げています。診察の場で言い出せなかったことが、用紙の上には書ける、ということはしばしばあります。

図1 PHQ-9の合計点と重症度のおおよその目安 0点から27点までの範囲で、点数が高いほど症状が重いことを示します 0〜4 5〜9 10〜14 15〜19 20〜27 なし〜最小 軽度 中等度 中等度〜重度 重度 合計点 治療で大切なのは、ある一時点の点数そのものより、点数がどう動いたかです。 前回から何点下がったか、どの項目が残っているかを見ながら方針を調整します。 この区分はあくまで目安であり、点数だけで診断が決まるものではありません。 自己判断の材料ではなく、診察のなかで医師と一緒に読むための道具です。
図1|Kroenke K, Spitzer RL, Williams JBW. The PHQ-9: validity of a brief depression severity measure. J Gen Intern Med. 2001;16(9):606-613. に示された重症度区分をもとに作図。

SECTION 3実際にどれくらい違うのか

MBCの効果を検証した研究のうち、最もよく引用されるのが、2015年に『American Journal of Psychiatry』に掲載された中国での臨床試験です。中等症から重症の大うつ病性障害の外来患者さんを対象に、MBCを行う群と標準的な治療を行う群にランダムに割り付け、評価者には割り付けを伏せた状態で結果を比較しました。

図2 反応率と寛解率の比較 中等症〜重症の大うつ病性障害の外来患者を対象としたランダム化比較試験 測定に基づく診療 標準治療 0 20 40 60 80 100 (%) 86.9 62.7 反応率 73.8 28.8 寛解率 反応=症状が半分程度まで改善した状態。寛解=症状がほぼ消失した状態。
図2|Guo T, et al. Measurement-Based Care Versus Standard Care for Major Depression: A Randomized Controlled Trial With Blind Raters. Am J Psychiatry. 2015;172(10):1004-1013. の報告値をもとに作図。

反応率、寛解率ともにMBC群が上回りました。とくに寛解率は73.8%と28.8%で、大きな開きがあります。

さらに注目すべきは、そこに到達するまでの時間です。

図3 反応・寛解に到達するまでの期間 短いほど、早く回復に至ったことを意味します 測定に基づく診療 5.6週 標準治療 11.6週 反応まで 測定に基づく診療 10.2週 標準治療 寛解まで 19.2週 0 5 10 15 20(週) 脱落率、副作用、併用薬の使用状況には両群で差は認められませんでした。
図3|Guo T, et al. Am J Psychiatry. 2015;172(10):1004-1013. の報告値をもとに作図。MBC群では治療の調整回数が多く、投与量も高い傾向が報告されています。

寛解までの期間が19.2週から10.2週へと、およそ半分になっています。しかも脱落率や副作用の頻度に差はありませんでした。この研究は2025年、パキスタンで154名を対象に同じ設計で再現され、こちらでも反応・寛解までの期間がMBC群で有意に短いという結果が得られています。

なぜ差が出たのか 論文では、MBC群のほうが治療の調整回数が多く、抗うつ薬の投与量も高かったことが報告されています。つまり、測ること自体が薬の代わりになったのではなく、測った結果を見て、必要な調整を必要なタイミングで行えたことが差につながったと考えられます。裏返せば、「なんとなく様子を見る」期間が短くなった、ということです。

SECTION 4ただし、万能ではありません

ここまで良い数字を並べてきましたが、研究全体を見渡すと評価はもう少し慎重になります。うつ病に対するMBCのランダム化比較試験7件、合計2,019名をまとめたシステマティックレビューとメタ解析では、次のような結果でした。

  • 反応率については、有意な差が認められませんでした(3試験、オッズ比1.66、95%信頼区間0.66〜4.17)
  • 寛解率はMBC群で有意に高いという結果でした(5試験、オッズ比1.83、95%信頼区間1.12〜2.97)
  • 治療終了時点の重症度もMBC群で低く、服薬アドヒアランスも良好でした
  • 脱落率には両群で差がありませんでした

ただし著者らは、7試験のうち5試験でバイアスのリスクが高いと判定されたことを注意点として挙げています。また、17件のランダム化比較試験をまとめた2016年のコクランレビューは、日常的な使用を支持するには根拠が不十分であると結論していました。

点数は目的ではありません 数値化には、副作用のような側面もあります。点数が下がることが目標になってしまうと、「今日は点数を下げたいから良く書こう」という力が働きます。また、点数が改善しても仕事に戻れていない、人と会えないという状態は珍しくありません。症状の点数と、生活が戻っているかどうかは、別の指標です。数値はあくまで会話のきっかけであり、それ以上のものではありません。

この点は、うつ病診療ガイドライン2025が「患者中心の医療」を第一のキーワードに置いていることと重なります。測定は手段であって、目指しているのはその人が納得できる生活を取り戻すことです。抗うつ薬で十分な改善が得られない場合の選択肢についてはこちらの記事でも扱っています。

SECTION 5診察室での使い方

実際に評価尺度を使うとき、いくつか知っておくと役に立つことがあります。

記入するときのこと

  • 良く見せようとしない。気を遣って軽めに書く方がいらっしゃいますが、そうすると必要な治療調整が遅れます。つらいときはつらいまま書いてください。
  • 聞かれている期間で答える。多くの尺度は「この2週間」を対象にしています。記入した日の調子ではなく、その期間全体を思い返して答えます。
  • 迷ったら書き添える。選択肢に当てはまらないと感じたら、余白にひとこと書いておいていただけると、診察で拾えます。

点数の読み方

  • 一回の点数では判断しない。体調や出来事によって数点は動きます。大事なのは何回か分の流れです。
  • 点数が上がったときこそ情報になる。悪化したことを責める材料ではありません。何があったのかを一緒に振り返る手がかりになります。
  • 残っている項目に注目する。合計点が下がっても、睡眠や意欲だけが残っていることがあります。そこが次の治療目標になります。
  • 点数が下がっても油断しない。再発予防の観点では、良くなった後にどれくらい維持するかが重要になります。
当院での取り組み 当院では電子カルテと予約システムを活用し、経過を記録として残しながら診療を行っています。評価尺度の使い方はお一人おひとりの状況に合わせて調整しますので、記入が負担に感じられる場合は遠慮なくお伝えください。無理に続けるものではありません。

FAQよくあるご質問

質問紙に答えるのが負担です。必ず書かないといけませんか?
必須ではありません。体調が悪いときに記入そのものが苦痛になるようなら、無理に続ける必要はありません。頻度を落とす、項目を絞る、口頭でのやりとりに切り替えるといった調整ができます。測定は治療をやりやすくするための道具であって、患者さんに課される義務ではありません。負担を感じたら、そのことをそのままお伝えください。
点数が良くなっているのに、自分では良くなった気がしません。
それはよくあることです。うつ病では自己評価が下がりやすく、改善を実感しにくい時期があります。また、症状の点数が下がることと、生活の実感が戻ることは別々に進みます。点数が動いているのに実感がない場合は、その食い違い自体が大切な情報です。何が戻っていないのかを一緒に整理していくと、次に手をつけるべきことが見えてきます。
点数が悪化していたら、薬が増えるのでしょうか?
必ずしもそうではありません。点数が上がった背景には、生活上の出来事、睡眠の乱れ、身体の不調、季節性の変動など、さまざまな要因があります。まずは何が起きていたのかを確認します。そのうえで薬の調整が必要かどうかを判断しますし、調整するとしても増量とは限りません。点数は方針を決める材料のひとつであり、自動的に処方が変わる仕組みではありません。
PHQ-9をインターネットでやってみたら高得点でした。うつ病でしょうか?
点数だけで診断は決まりません。評価尺度は症状の程度を測るための道具であって、診断そのものを行うものではないからです。高得点が出る背景には、うつ病以外にも、身体疾患、睡眠の問題、環境的なストレスなどさまざまな可能性があります。ただ、点数が高く出て気になっているという事実自体は、受診を検討する十分な理由になります。結果を持参いただければ、それを出発点にお話をうかがいます。
どれくらいの頻度で測るのがよいのですか?
うつ病診療ガイドライン2025の作成に携わった専門家は、寛解を達成するまではできるだけ毎回、少なくとも2週間に1回は評価するのが望ましいという目安を示しています。ただしこれは一律の決まりではなく、通院間隔や症状の安定度によって調整されます。状態が落ち着いてからは、間隔を空けていくことが一般的です。
測定に基づく診療をすれば必ず治りますか?
そうとは言えません。中国での臨床試験では寛解率や回復までの期間に大きな差が示されましたが、7試験をまとめたメタ解析では反応率に有意な差が認められず、多くの試験でバイアスのリスクが高いことも指摘されています。測定は治療の精度を上げるための工夫であって、それ自体が治療ではありません。薬物療法、心理的な支援、環境の調整といった要素と組み合わせて、はじめて意味を持ちます。

CONTACT治療の手ごたえが分からないとき

「通っているけれど、進んでいるのか分からない」。そう感じているなら、経過を見える形にすることから始められます。当院では、いまの状態と、これまでどう変化してきたかを一緒に確認しながら、次の方針を組み立てていきます。他院で治療中の方のセカンドオピニオンも承っています。

六本松こころのクリニック(心療内科・精神科)
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556
平日は朝7時から診療しています
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REFERENCES参考文献

  1. Guo T, Xiang YT, Xiao L, et al. Measurement-Based Care Versus Standard Care for Major Depression: A Randomized Controlled Trial With Blind Raters. Am J Psychiatry. 2015;172(10):1004-1013. doi:10.1176/appi.ajp.2015.14050652
  2. Husain MI, Nigah Z, Ansari SUH, et al. Measurement-Based Care to Enhance Antidepressant Treatment Outcomes in Major Depressive Disorder: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2025;8(9):e2529427. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.29427
  3. The Efficacy of Measurement-Based Care for Depressive Disorders: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Clin Psychiatry. 2021.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34587377/
  4. Kroenke K, Spitzer RL, Williams JBW. The PHQ-9: validity of a brief depression severity measure. J Gen Intern Med. 2001;16(9):606-613.
  5. 一般社団法人 日本うつ病学会「うつ病診療ガイドライン2025」(2025年12月25日公開)
    https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/kibun.html
  6. Rush AJ. Isn’t It About Time to Employ Measurement-Based Care in Practice? Am J Psychiatry. 2015;172(10):934-936.
本記事は、公表されている学術論文および診療ガイドラインに関する情報をもとに、一般的な医学情報の提供を目的として作成したものです。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではなく、特定の治療法の効果を保証するものでもありません。評価尺度は症状の程度を把握するための道具であり、診断を確定するものではありません。点数のみをもとに自己判断で治療内容を変更したり、服用中のお薬を中止・調整したりすることは避けてください。治療についてのご判断は、必ず主治医にご相談ください。

心療内科・精神科/〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)
TEL 092-401-4556 | https://ropponmatsukokoro.com/
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