減酒治療とは——お酒は「やめる」だけでなく「減らす」選択肢も
「お酒の量が気になるけれど、病院に行ったら『やめなさい』と言われるだけだろう」。そう思って相談をためらっている方は少なくありません。実際には、すぐにきっぱりやめることだけが治療の目標ではありません。飲む量を減らすことを目指す「減酒」という選択肢があり、それを支える方法も増えてきました。
前田 輝(まえだ あきら) 院長
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
複数の精神科病院・クリニックでの勤務を経て、2026年4月に福岡市中央区六本松で開業。平日朝7時からの診療を行っています。
減酒治療とは、お酒を完全にやめる(断酒)のではなく、飲む量を減らすことを目標にする治療です。お酒の問題では、長く「断酒が唯一の道」と考えられてきました。しかし、それが受診のハードルを上げ、問題が大きくなるまで誰にも相談しない人を増やしてきた面もあります。この記事では、減酒という考え方と、それを支える方法、そしてまだ分かっていないことを整理します。
1. 「やめろと言われるのが怖い」
お酒の量が気になっていても、多くの方は医療機関に相談しません。理由として多いのが、「やめなさいと言われるだけだ」「アルコール依存症と診断されたくない」「やめる自信がない」といったものです。
その気持ちは自然なものです。そして、そのためらいがあるからこそ、「減らすことから始める」という選択肢には大きな意味があります。完璧な目標を掲げて何もしないより、現実的な目標で一歩を踏み出すほうが、結果として健康を守ることにつながるからです。
2. どのくらいから「飲みすぎ」なのか
2024年2月、厚生労働省は国として初めての飲酒ガイドライン「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました[1]。このガイドラインでは、お酒の量を「何杯飲んだか」ではなく、純アルコール量(グラム)で考えることを勧めています。
ガイドラインでは、1日あたりの純アルコール量が男性40g以上、女性20g以上になると、生活習慣病のリスクが高まるとしています。ただし、ここで大事なのは、これは「この量までなら安全」という意味ではないことです。飲む量が増えるほど健康上のリスクは上がり、少量でもリスクがゼロになるわけではない、という考え方が示されています[1]。
ご自身のふだんの量を、一度この式で計算してみてください。思っていたより多い、と感じる方が少なくありません。
3. 断酒と減酒——どちらを目指すか
日本のアルコール医療の専門学会が監修した診療ガイドラインでは、断酒が最も確実な目標であることを前提としながら、比較的軽い段階の方や、断酒に踏み切れない方では、減酒を目標にすることも選択肢になると位置づけています[2]。
一方で、次のような場合は、減酒より断酒を目標にすることが強く勧められます。
- 肝臓や膵臓などに、お酒による重い病気がすでにある
- お酒を切らすと手の震えや汗、不眠などの離脱症状が出る
- 減酒を試みたが、どうしても量を減らせなかった
- 妊娠中である
大切なのは、どちらを選ぶかを一人で決めないことです。そして、最初に減酒を選んでも、途中で断酒に切り替えることもできる、という点です。逆に、断酒を続けている方が自己判断で減酒に切り替えるのは避けてください。
4. 減酒を支える方法
まず、記録すること
減酒の基本は、飲んだ量を記録することです。いつ、どこで、何を、どれだけ飲んだか。記録するだけで、自分がどんな場面で量が増えるのかが見えてきます。そのうえで、医療者と一緒に現実的な目標を決め、うまくいった日といかなかった日を振り返っていきます。こうした心理的・社会的な支援が、減酒治療の土台です。
飲酒量を減らす薬
国内では2019年に、飲酒量を減らすことを目的とした薬(ナルメフェン)が承認されました。飲酒の予定がある日に、飲む前に服用することで、飲みたい気持ちを抑える働きがあるとされています。※当院では処方できません。
日本人を対象とした臨床試験では、国内80施設で心理社会的な支援と組み合わせて12週間使ったところ、偽薬(プラセボ)と比べて、大量に飲む日が月あたり約4日少なくなりました[3]。参加者はもともと月に平均23日ほど大量に飲んでいた方々です。
減酒治療のためのアプリ
現在のところ当院でできるわけではありませんが、2025年には、新しい選択肢が加わりました。減酒を目標とする方の治療を補助するスマートフォンのアプリが2月に承認され、9月から保険適用となりました[5]。医師が処方する「治療用アプリ」で、日々の飲酒量や体調を入力すると、病気についての情報や、一人ひとりに合わせた目標の提案が表示される仕組みです。
このアプリを用いたランダム化比較試験では、12週間の時点で、アプリを使った群で大量に飲む日が有意に減ったと報告されています[4]。
5. 分かっていること・分かっていないこと
正直にお伝えすべき限界があります。
飲酒量を減らす薬については、海外の研究者が公表済み・未公表の試験を集めて検討したメタ解析で、飲む量の減少は小さく、病気や死亡などの健康上の結果が改善するかは示されていないと指摘されています[6]。日本の試験は、この批判を受けて、あらかじめ対象を飲酒量の多い方に絞って行われたもので、そこでは効果が確認されました。ただし、健康上の結果を長く追った研究ではありません。
アプリについても、試験は参加者と医師がどちらの群か分かる形(非盲検)で行われています。保険適用を審議した中央社会保険医療協議会でも、既存の健康アプリとの違いを含め、実際の診療での効果を検証する必要があるという意見が出されました[5]。
つまり、薬やアプリは「減酒を支える道具」であって、それだけで解決するものではありません。土台にあるのは、記録と振り返り、そして医療者との継続的な関わりです。
ご本人が受診を嫌がる場合でも、ご家族だけで先に相談にいらっしゃることができます。お酒の問題では、ご家族が疲れ切ってしまうことが少なくありません。ご本人への声のかけ方や、ご家族自身の休み方についても、一緒に考えます。
よくあるご質問
減酒治療は、どんな人が受けられますか?
受診したら、結局「お酒をやめなさい」と言われませんか?
自分の飲酒量が多いのかどうか、分かりません。
思い切って、明日から一滴も飲まないことにしました。
家族の飲酒が心配ですが、本人は受診したがりません。
減酒治療の薬を飲めば、お酒を飲んでも大丈夫になりますか?
お酒の量が気になったときに
「やめろと言われるのでは」と心配な方も、まずはお話を伺います。減酒・断酒のどちらが合うかも含めて、一緒に考えます。ご家族だけでのご相談も承ります。平日は朝7時から診療しているため、出勤前にお越しいただけます。特定の治療をお約束するものではありません。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556/平日は朝7時から診療しています
参考文献(一次情報)
- 厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン. 2024年2月19日. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html
- 日本アルコール・アディクション医学会, 日本アルコール関連問題学会(監修), 樋口進, 齋藤利和, 湯本洋介(編). 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン. 新興医学出版社; 2018.
- Miyata H, Takahashi M, Murai Y, et al. Nalmefene in alcohol-dependent patients with a high drinking risk: randomized controlled trial. Psychiatry Clin Neurosci. 2019;73(11):697-706. doi:10.1111/pcn.12914
- Efficacy and safety of a digital therapeutic for alcohol dependence: a multicenter, open-label, randomized controlled trial. PMC12498122
- 中央社会保険医療協議会 総会(2025年7月16日). アルコール依存症の飲酒量低減治療補助アプリの保険適用について(2025年2月13日製造販売承認、2025年9月1日保険収載).
- Palpacuer C, Laviolle B, Boussageon R, et al. Risks and benefits of nalmefene in the treatment of adult alcohol dependence: a systematic literature review and meta-analysis of published and unpublished double-blind randomized controlled trials. PLoS Med. 2015;12(12):e1001924. doi:10.1371/journal.pmed.1001924
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