うつ病の増強療法とは|抗うつ薬が効きにくいときの選択肢
抗うつ薬をきちんと飲んでいるのに、思うように良くならない。そう感じている方は少なくありません。薬を替えるべきか、量を増やすべきか、それとも別の薬を足すのか。「増強療法」という選択肢について、承認されている薬剤、期待できること、注意が必要なことを整理します。
- 国内で承認は2剤のみ
- ガイドライン2025の新しい考え方
- 平日朝7時から受診できます
院長 前田 輝(まえだ あきら)
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)
SECTION 1「薬を飲んでいるのに良くならない」とき
抗うつ薬による治療を始めても、すべての方が十分に良くなるわけではありません。ある程度は改善したものの、そこから先に進まない。あるいは、ほとんど変化を感じられない。診察室で「もう半年飲んでいるのに」と打ち明けられることは、決して珍しくありません。
ただ、そこですぐに薬を足すという話にはなりません。次の一手を考える前に、確認しておくべきことがいくつもあるからです。
まず見直すこと
| 診断そのもの | 抑うつ症状が、実は双極症の抑うつエピソードだったという場合があります。この場合、抗うつ薬を主剤にする方針自体を見直す必要があります。 |
|---|---|
| 用量と期間 | その薬が、効果を判定できるだけの量と期間で使われているか。増量の余地が残っていることは意外に多くあります。 |
| 服薬の状況 | 飲み忘れや、副作用がつらくて自己調整している状況がないか。言いにくいことですが、正直に教えていただけると方針が変わります。 |
| 身体の要因 | 甲状腺機能の異常、貧血、慢性的な痛みなど。睡眠時無呼吸や不眠が背景にあると、抗うつ薬だけでは頭打ちになります。 |
| 環境の要因 | 職場のストレス、介護の負担、経済的な問題。薬で症状を抑えても、負荷がかかり続けていれば改善は限られます。 |
これらを確認したうえで、なお改善が不十分なとき、薬物療法としては大きく3つの方向があります。
SECTION 2うつ病の増強療法とはどんな治療か
うつ病の増強療法(augmentation)とは、いま使っている抗うつ薬を続けたまま、抗うつ薬とは別の種類の薬を少量上乗せする治療です。抗うつ薬そのものを増やすのでも、入れ替えるのでもありません。
日本で、うつ病に対する増強療法として承認されている非定型抗精神病薬は、アリピプラゾールとブレクスピプラゾールの2剤です。いずれも大塚製薬が創製した国産の薬剤で、統合失調症の治療に使う量よりも低い用量で用いられます。
ブレクスピプラゾールの国内試験
2023年12月22日、ブレクスピプラゾール(販売名レキサルティ)に「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」の効能が追加されました。この承認の根拠になった国内第3相試験の内容は、次のとおりです。
- 対象は、SSRIまたはSNRIによる治療で反応が不十分だった20歳から64歳の大うつ病性障害の患者さん740名
- 抗うつ薬に上乗せする形で、1日1回1mgまたは2mgを6週間投与
- 主要評価項目は、投与6週後のMADRS(うつ病の重症度を測る評価尺度)合計スコアの平均変化量
- 1mg群・2mg群ともに、プラセボと比較して統計学的に有意な改善を示した
- 忍容性は全般的に良好で、新たな安全性の懸念は認められなかった
用法は「成人に1日1回1mgを経口投与する。忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、1日量2mgに増量することができる」と定められています。統合失調症で用いる量と比べると、かなり控えめな設定です。
SECTION 3期待できることと、引き換えになるもの
増強療法には、はっきりした利点があります。いま効いている部分を手放さずに済むことです。切り替えの場合、それまでの薬をやめる過程で一時的に調子を崩すことがありますが、増強ではその心配が小さくなります。効果が現れるまでの期間も、比較的短い傾向があります。
一方で、抗精神病薬を上乗せするということは、抗精神病薬の副作用を引き受けるということでもあります。この点は率直にお伝えしておく必要があります。
実際、海外の診療ガイドラインでは、非定型抗精神病薬による増強療法の位置づけはどちらかといえば慎重です。有効性そのものは認めつつ、有害作用とのバランスを重く見ているためです。国内の資料にも「安易な併用は控えるべき」と明記されています。
SECTION 42025年、考え方の枠組みが変わった
日本うつ病学会は2025年12月25日、『うつ病診療ガイドライン2025』を公開しました。この改訂で導入された概念のひとつが、「難治性抑うつ(Difficult-to-Treat Depression:DTD)」です。
これまで使われてきた「治療抵抗性うつ病」は、主に「2剤以上の抗うつ薬に反応しない」という、薬剤への反応性に焦点を当てた定義でした。次にどの薬を足すか、という発想と相性のよい枠組みです。
これに対してDTDは、薬剤抵抗性だけでなく、機能回復までを含めた広い視点で状態をとらえようとします。症状の点数が下がったかどうかではなく、その人が仕事や生活をどれだけ取り戻せているか。そこを見ようという考え方です。
薬以外の選択肢
抗うつ薬で十分な改善が得られない場合、増強療法以外にも検討される方法があります。心理療法の併用、修正型電気けいれん療法、経頭蓋磁気刺激療法などです。当院で対応できるもの、他院にご紹介したほうがよいものがありますので、状況をうかがったうえでご案内します。治療抵抗性うつ病の治療法についてはこちらの記事でも扱っています。
また、ガイドライン2025では共有意思決定(SDM)も重視されています。どの選択肢を取るかは、効果の見込みだけでなく、副作用をどこまで許容できるか、通院にどれだけ時間を割けるか、いま生活で何を優先したいかによって変わります。決めるのは医師だけではありません。
SECTION 5診察室で伝えていただきたいこと
増強療法を検討する場面では、これまでの経過をできるだけ正確に共有できるかどうかが、方針の質を左右します。次のような情報があると、判断の精度が上がります。
- これまでに使った抗うつ薬の名前と、飲んでいた量・期間。お薬手帳があれば持参してください。
- どの薬でどんな副作用が出たか。「合わなかった」の中身が分かると、次の選択が変わります。
- 飲めなかった時期があるかどうか。責める話ではありません。効かなかったのか、飲めていなかったのかは、まったく別の問題です。
- いま一番困っていること。気分の落ち込みなのか、意欲が出ないことなのか、眠れないことなのか。優先順位によって選ぶ薬が変わります。
- 気分が異常に高揚した時期がなかったか。短期間でも心当たりがあれば、必ずお伝えください。診断の枠組みが変わる可能性があります。
受診を考えていただきたい状況
- 抗うつ薬を十分な期間続けているが、改善の実感がない
- いったん良くなったが、そこから先に進まない状態が続いている
- 薬の種類が増えてきて、何がどう効いているのか分からなくなっている
- 副作用がつらく、続けるかどうか迷っている
- いまの治療方針について、別の医師の意見も聞いてみたい
治療が長引くと、「自分が努力していないからではないか」と考えてしまう方がいらっしゃいます。うつ病の経過は、本人の努力の量では決まりません。方針を見直せば動き出すことも、背景の要因が見つかることもあります。行き詰まりを感じているなら、それ自体が相談する理由になります。
FAQよくあるご質問
抗精神病薬を飲むと言われました。自分は統合失調症なのでしょうか?
効果はどれくらいで分かりますか?
体重が増えるのが心配です。
じっとしていられない感じがします。副作用でしょうか?
増強療法はいつまで続けるのですか?
薬を増やす以外の方法はありませんか?
CONTACT治療が行き詰まっていると感じたら
「薬は飲んでいるけれど、良くなっている実感がない」。その状態が続いているなら、方針を一度見直す価値があります。当院では、これまでの治療経過をうかがい、診断の妥当性、薬の量と期間、背景にある身体的・環境的な要因まで含めて確認したうえで、次の選択肢をご提案します。セカンドオピニオンとしてのご相談も承っています。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556
平日は朝7時から診療しています
REFERENCES参考文献
- 大塚製薬株式会社「抗精神病薬『レキサルティ』 うつ病・うつ状態の効能追加の承認取得」(2023年12月22日)
https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2023/20231222_1.html - ブレクスピプラゾール製剤 医薬品リスク管理計画(独立行政法人医薬品医療機器総合機構 公開資料)
https://www.pmda.go.jp/ - 一般社団法人 日本うつ病学会「うつ病診療ガイドライン2025」(2025年12月25日公開)
https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/kibun.html - 加藤正樹「治療抵抗性抑うつに対し外来診療でできる薬物療法」精神神経学雑誌 第120巻
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1200050391.pdf - 厚生労働省 令和5年度委託事業「薬局における疾患別対応マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/001409761.pdf - 大塚製薬株式会社「アリピプラゾール・塩酸セルトラリン配合錠を国内申請」(アリピプラゾールの国内承認経緯について)
https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2017/20170728_1.html - 各製剤の添付文書(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
https://www.pmda.go.jp/
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