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コラム

猛暑とこころ|暑さとメンタルヘルスの意外な関係

猛暑とこころ|暑さとメンタルヘルスの意外な関係
六本松こころのクリニック COCORO NO CLINIC|福岡市中央区六本松
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猛暑とこころ——暑さとメンタルヘルスの意外な関係

暑さが体に与える影響は、熱中症としてよく知られています。一方で、暑い日には気分の落ち込みや不安、眠れなさといった心の不調も増えることが、世界各地の研究から分かってきました。そして、精神科の薬を飲んでいる方には、夏に特有の注意点があります。今年も西日本を中心に厳しい暑さが続いた夏を振り返りながら、整理します。

53研究のメタ解析を紹介 米国350万件の救急受診データ 精神保健指定医が監修
監 修

前田 輝(まえだ あきら) 院長
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
複数の精神科病院・クリニックでの勤務を経て、2026年4月に福岡市中央区六本松で開業。平日朝7時からの診療を行っています。

暑さとメンタルヘルスの関係は、ここ10年ほどで研究が急速に進んだ分野です。「暑いとイライラする」「夏バテで気分が沈む」といった感覚は多くの方にあると思いますが、それは気のせいではなく、大規模なデータでも確かめられつつあります。この記事では、その根拠と、とくに気をつけたい方、そしてまだ分かっていないことを分けてお伝えします。

1. 記録が続く夏

気象庁によると、2025年夏(6〜8月)の日本の平均気温は平年より2.36℃高く、1898年の統計開始以来もっとも高い値でした。全国153の観測地点のうち132地点で、夏の平均気温が歴代1位となっています[1]。

この年、熱中症による救急搬送は5〜9月で10万510人に達し、2008年の調査開始以来はじめて10万人を超えました。このうち65歳以上が57.1%を占め、発生場所でもっとも多かったのは道路や屋外ではなく自宅などの住居でした[3]。

そして今年、2026年の夏も、全国平均では2025年ほどではなかったものの、北日本と西日本でかなり高い気温となりました。西日本では7月中旬・下旬と8月下旬に、1946年の統計開始以降でそれぞれ1位の高温を記録し、九州北部でも最高気温40℃以上の日を観測した地点がありました[2]。福岡にお住まいの方にとっては、例年以上に長く厳しい夏だったと言えます。

2. 暑い日には、心の不調も増える

2021年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析は、1990〜2020年に発表された53の研究を集め、暑さと心の健康の関係を調べました[4]。合わせて170万件を超える死亡と190万件を超える受診・入院のデータが含まれています。

結果は、気温が1℃上がるごとに、心の不調に関連する死亡が2.2%、受診や入院が0.9%増えるというものでした。気分障害(うつ病など)、認知症などの脳の病気に伴う精神症状、統合失調症、不安障害で、いずれも気温の上昇とともに受診・入院が増えていました。

1℃で0.9%と聞くと小さく感じるかもしれません。しかし、猛暑の日は平年より何℃も高くなります。そして、この数字は社会全体では非常に大きな人数に相当します。

猛暑日の救急受診

米国で2010〜2019年の暖かい季節(5〜9月)に起きた、心の不調による救急外来の受診約350万件を分析した研究があります[5]。その地域の気温の上位5%に当たる猛暑の日には、心の不調による救急受診が8%増えていました。

猛暑日の救急受診の増え方 米国の約350万件、暑い日とそうでない日の比較 心の不調全体 +8% 物質使用 +8% 不安・ストレス +7% 気分障害 +7% 自傷 +6% 統合失調症 +5% ※ 猛暑日:その地域の気温の上位5%の日
図1:猛暑の日に、心の不調による救急外来の受診がどれだけ増えたか。診断の種類を問わず増加がみられた。対象は健康保険に加入している米国の成人で、日本にそのまま当てはまるとは限らない。出典:文献[5]。

増加は、気分障害、不安やストレス関連の障害、統合失調症、自傷、物質使用など、ほぼすべての種類の心の不調でみられました。特定の病気だけの問題ではなく、暑さが心全体に負荷をかけていることがうかがえます。

3. 精神科の薬を飲んでいる方へ

ここが、精神科・心療内科として最もお伝えしたい点です。

精神科で使う薬の中には、汗をかく働きや、体温を調節する働きに影響するものがあります。2003年にフランスを襲った熱波の際、救急外来を受診した人のうち熱中症と診断された人と、そうでない人を比べた研究があります[6]。

熱中症で受診した人が使っていた薬 受診しなかった人と比べた使用の多さ 抗コリン作用の薬 6.0倍 抗精神病薬 4.6倍 抗不安薬 2.4倍 ※ 2003年フランスの熱波。平均83歳 ※ 熱中症の人は56人と少なく、幅が大きい ※ 薬が原因と証明したものではない
図2:熱波の際に熱中症で救急受診した人は、そうでない人に比べて、これらの薬を使っている割合が高かった。少人数の研究で、数値は幅をもって読む必要がある。出典:文献[6]。

熱中症で受診した人は、抗コリン作用のある薬を6.0倍、抗精神病薬を4.6倍、抗不安薬を2.4倍多く使っていました。平均年齢は83歳で、熱中症と診断された人は56人と少数です。研究者らは、熱波のような状況では、体温調節に影響しうる薬の利益と危険を、とくに高齢者で慎重に見直すべきだと結論づけています。

ただし、これは「薬が熱中症を起こした」と証明したものではありません。薬を飲んでいる方は、もともと体の状態が不安定だったり、一人暮らしで暑さに気づきにくかったりする可能性もあります。いずれにしても、薬を飲んでいる方は夏に注意が必要なグループであることは確かです。

暑いからといって、自己判断で薬を減らしたりやめたりしないでください。急な中止は、もとの症状の悪化や離脱症状につながります。気をつけることは薬をやめることではなく、室温の管理、こまめな水分補給、体調の変化に早く気づくことです。暑い時期に心配があれば、次の診察で処方医にご相談ください。
めまい、強いだるさ、吐き気、頭痛、意識がぼんやりする、といった症状が暑い環境で急に現れた場合は、心の不調より先に熱中症を疑い、涼しい場所で休んで、改善しなければすぐに医療機関を受診してください。

4. なぜ暑さが心に影響するのか

暑さが心の不調を増やす仕組みは、まだはっきりとは分かっていません。いくつかの経路が考えられています。

  • 睡眠が削られる:夜の気温が高いほど睡眠時間が短くなる傾向が、世界68か国のデータを使った研究で報告されています[7]。睡眠不足は、気分の落ち込みや不安、いらいらを強めます
  • 体力の消耗と脱水:暑さそのものによる疲労や、水分不足による集中力の低下
  • 外出や人との交流が減る:暑さを避けて家にこもることで、運動不足や孤立が起こりやすくなる
  • 薬の影響:前述のとおり、体温調節に影響する薬がある

これらが重なり合って影響していると考えられますが、どれがどのくらい効いているのかは、まだ研究の途中です。

5. 分かっていること・分かっていないこと

確かめられた範囲と、その外側 示されていること ・気温が高いほど心の不調の受診が増える ・増加はほぼすべての診断でみられる ・一部の薬を使う人は熱中症に注意が必要 ・夜が暑いほど睡眠は短くなりやすい 示されていないこと ・暑さが心に影響する仕組みの詳細 ・日本での規模(研究の多くは海外) ・どんな対策が心の不調を減らせるか ・夏の影響が秋まで続くかどうか
図3:確かめられた範囲と、その外側。関連は多くの研究で一貫しているが、研究ごとの結果のばらつきは大きく、観察研究であるため因果関係の証明にはなっていない。出典:文献[4][5][6][7]をもとに作成。

メタ解析の著者ら自身が、研究ごとの結果のばらつきが中〜大きいことを認めています[4]。国や地域、冷房の普及、医療制度によって、暑さの影響は大きく変わりうるためです。日本のデータにもとづく研究はまだ多くありません。

国際的には、この分野の重要性が認識されはじめています。2025年、精神医学誌ランセット・サイカイアトリーは「気候変動とメンタルヘルスに関する委員会」の立ち上げを発表しました[8]。その発表の中で、既存の研究による試算として、気候変動に関連する心の病気の経済的損失が2050年までに2,450億ドルに達するという数字が引用されています。委員会自体の報告はこれからで、具体的な対策の提言はその中で示される予定です。

夏が過ぎても調子が戻らないとき

「暑さが和らいだのに、まだ疲れが抜けない」「夏の間に崩れた睡眠のリズムが戻らない」という方もいらっしゃると思います。夏の影響が秋まで続くかどうかは、研究ではまだ確かめられていません。ただ、夏の間に削られた睡眠や、減った活動量が、すぐに元に戻るとは限りません。

気分の落ち込み、意欲の低下、眠れない状態が2週間以上続いている場合は、季節のせいだと片づけず、一度ご相談ください。暑さがきっかけだったとしても、続いている不調には手当てが必要です。

よくあるご質問

暑さとメンタルヘルスには、本当に関係があるのですか?
53の研究をまとめた解析では、気温が1℃上がるごとに心の不調による受診や入院が0.9%増えるという結果でした。米国の大規模な調査でも、猛暑の日には心の不調による救急受診が8%増えています。気分障害、不安障害、統合失調症など、ほぼすべての診断で増加がみられました。ただし、どのような仕組みで起こるのかは、まだ研究の途中です。
精神科の薬を飲んでいます。夏に気をつけることはありますか?
一部の薬は、汗をかく働きや体温の調節に影響することがあります。とくに抗コリン作用のある薬や抗精神病薬を飲んでいる方、高齢の方は注意が必要です。ただし、自己判断で薬を減らしたりやめたりしないでください。大切なのは、室温を適切に保つこと、こまめに水分をとること、体調の変化に早く気づくことです。心配な点は処方医にご相談ください。
暑い夜は眠れず、日中の気分も落ち込みます。
夜の気温が高いと睡眠が短くなりやすいことが、国際的な研究で報告されています。寝室の温度を下げること(冷房を適切に使うこと)は、睡眠を守るうえで大切です。それでも眠れない状態が続き、日中の気分や集中力にも影響している場合は、睡眠そのものへの手当てが必要かもしれません。一度ご相談ください。
夏が終わったのに、疲れや気分の落ち込みが続いています。
夏の間に崩れた睡眠のリズムや、落ちた活動量は、気温が下がってもすぐには戻らないことがあります。ただし、気分の落ち込みや意欲の低下、眠れない状態が2週間以上続いている場合は、季節の影響だけとは限りません。うつ病などの可能性もあるため、一度ご相談いただくことをおすすめします。
熱中症と、うつや不安の症状は見分けられますか?
熱中症の初期には、めまい、だるさ、頭痛、吐き気、集中できない感じなどが現れ、心の不調と紛らわしいことがあります。暑い環境にいて急にこうした症状が出た場合は、まず熱中症を疑い、涼しい場所で休んで水分をとってください。改善しない場合や意識がぼんやりする場合は、すぐに医療機関を受診してください。
高齢の家族が精神科の薬を飲んでいて、一人暮らしです。
熱中症での救急搬送の半数以上は65歳以上で、発生場所として最も多いのは自宅です。高齢の方は暑さやのどの渇きを感じにくく、冷房を控えがちなこともあります。暑い時期には、室温の確認、水分補給の声かけ、こまめな連絡などを心がけてください。薬の量や種類について心配があれば、処方医に相談されることをおすすめします。

夏の疲れが、心の疲れになっているときに

眠れない、気分が沈む、夏が過ぎても調子が戻らない、といったご相談を承ります。服用中の薬と暑さの関係についてのご質問にもお答えします。平日は朝7時から診療しているため、日中の暑い時間帯を避けてお越しいただけます。特定の治療をお約束するものではありませんが、まずはお話を伺います。

六本松こころのクリニック
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556/平日は朝7時から診療しています
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参考文献(一次情報)

  1. 気象庁. 2025年夏(6月〜8月)の天候. 2025年9月1日. https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/seasonal/202508/202508s.html
  2. 気象庁. 2026年夏(6月〜8月)の天候. https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/seasonal/202608/202608s.html
  3. 総務省消防庁. 令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況(確定値). 2025年10月29日. https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01shoubo01_02001124.html
  4. Liu J, Varghese BM, Hansen A, et al. Is there an association between hot weather and poor mental health outcomes? A systematic review and meta-analysis. Environ Int. 2021;153:106533. doi:10.1016/j.envint.2021.106533
  5. Nori-Sarma A, Sun S, Sun Y, et al. Association between ambient heat and risk of emergency department visits for mental health among US adults, 2010 to 2019. JAMA Psychiatry. 2022;79(4):341-349. doi:10.1001/jamapsychiatry.2021.4369
  6. Martin-Latry K, Goumy MP, Latry P, et al. Psychotropic drugs use and risk of heat-related hospitalisation. Eur Psychiatry. 2007;22(6):335-338. doi:10.1016/j.eurpsy.2007.03.007
  7. Minor K, Bjerre-Nielsen A, Jonasdottir SS, Lehmann S, Obradovich N. Rising temperatures erode human sleep globally. One Earth. 2022;5(5):534-549. doi:10.1016/j.oneear.2022.04.008
  8. Brandt L, Augustinavicius J, Fusar-Poli P, et al. Climate change and mental health: announcing a new Lancet Psychiatry Commission. Lancet Psychiatry. 2025;12(11):811-813. doi:10.1016/S2215-0366(25)00274-3
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療を示すものではありません。紹介した研究の多くは海外で行われた観察研究であり、暑さが心の不調の原因であることを証明したものではありません。熱中症が疑われる場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。現在服用中のお薬を自己判断で中止・変更することは避けてください。本記事に記載した内容は公開時点の情報にもとづいています。
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