睡眠薬のやめ方——減らし方には正しい手順がある
「一度飲んだら、やめられなくなるのではないか」。睡眠薬や抗不安薬について、多くの方が抱く不安です。実際、自己判断で急にやめてしまい、かえって苦しむ方は少なくありません。2025年3月、米国の10の医学系団体が合同で、減らし方の具体的な手順を示した指針を公表しました。何をどのくらいの速さで減らすのか、そして減らす前に何を決めておくのかを整理します。
前田 輝(まえだ あきら) 院長
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
複数の精神科病院・クリニックでの勤務を経て、2026年4月に福岡市中央区六本松で開業。平日朝7時からの診療を行っています。
睡眠薬のやめ方を知りたいという相談は、診察室でとても多いものです。そして意外に思われるかもしれませんが、この「やめたい」という気持ちは、治療を進めるうえで大切な出発点になります。問題は、やめたい気持ちが強いあまり、誰にも相談せずに急に中止してしまうことです。それは最も避けたい方法です。
1. 日本人は、睡眠薬への不安がとくに強い
日本睡眠学会が公開している解説によれば、一般の方を対象にした調査で「不安を感じずに服用できる期間」を尋ねたところ、「1週間以内」という回答が半数を占めたと報告されています。長期に飲むことへの抵抗が強く、その不安から、指示どおりに飲まない、自分の判断で急にやめてしまう、といったことが起こりやすくなります。そして結果として、不眠が悪化したり、離脱症状に苦しんだりする——という悪循環が指摘されています[1]。
つまり、「不安だから相談しない」ことが、いちばん困った結果を招いています。逆に言えば、「やめたい」と口に出すことが、安全に減らすための第一歩です。
2. 2025年、10の学会が合同で手順を示した
2025年3月、米国依存症医学会(ASAM)が中心となり、米国家庭医学会、米国精神医学会、米国神経学会、米国老年医学会など合わせて10の医学系団体が合同で、ベンゾジアゼピン系の薬を減らすための診療ガイドラインを公表しました[2]。米国食品医薬品局(FDA)の資金提供を受けて作成されたもので、実際に減薬を経験した当事者のパネルも作成過程に参加しています。
このガイドラインが示した、減らす速さの目安が次のとおりです。
ポイントは3つあります。第一に、2〜4週ごとに5〜10%という速さは、多くの方が想像するよりずっとゆっくりだということです。たとえば1日1錠を飲んでいる方なら、1年近くかけて減らしていくような計算になります。
第二に、2週間で25%を超えて減らさないという上限が設けられました。急ぎたい気持ちが出ても、ここは超えない、という線です。
第三に、体が薬に慣れる状態(身体依存)は、数週間で生じることがあるとガイドラインは明記しています[2]。これは「意志が弱いから」ではなく、体の仕組みとして起こることです。ここを誤解していると、自分を責める方向に進んでしまいます。
3. 減らす前に決めておくこと
減量は、思い立った日に始めるものではありません。合同ガイドラインは、まず飲み続けた場合の利益と不利益、減らした場合の利益と不利益の両方を評価することから始めるよう求めています[2]。減らすこと自体が常に正解ではなく、その方にとって今が適した時期かどうかを見る、という考え方です。
日本睡眠学会のガイドラインも、同じ方向を示しています。不眠症が良くなったと判断するには、夜の症状だけでなく日中の症状(眠気、疲れやすさ、いらいら、不安)も改善していることが必要であり、両方が整ってから、減量・休薬を目指すのか、安全性の高い薬を長めに続けるのかを、医師と患者が相談して決めるのが望ましいとされています[1]。
・今、夜の症状と日中の症状はどうなっているか
・仕事や生活に、大きな変化が控えていないか(繁忙期、引っ越し、試験など)
・どのくらいの期間をかけるつもりか
・うまくいかないとき、どこで立ち止まるか
減量中に不眠が強まる時期は、多くの場合あります。「そうなったらどうするか」を先に決めておくと、途中でやめてしまわずに済みます。
4. 減らしている途中に起こること
減量の途中で症状が出たとき、それが薬を減らしたことによる一時的な反応なのか、もともとの不眠や不安が戻ってきたのかを見分けることが、判断の分かれ目になります。この2つは対応が異なります。
合同ガイドラインは、一部の方では減量後に症状が長く続くことがあり、それが見過ごされてきたことも記載しています[2]。「すぐ終わるはず」と決めつけないことも、支える側に必要な姿勢です。
減量を支えるもの——薬以外の手当て
このガイドラインが薬の減らし方だけを書いているわけではない点は、とくにお伝えしたいところです。減量の過程では、認知行動療法、とくに不眠症に特化した認知行動療法(CBT-I)を併せて行うことが推奨されています[2]。
理由は単純で、薬を減らせば当然、眠りにくさが出てきます。そこを薬以外の方法で支えられれば、減量は続けやすくなります。眠る時間帯の整え方、眠れないまま床にいる時間の扱い方、眠りについての考え方の見直しなどが、その中身です。
日本でも制度が動きました。2026年度の診療報酬改定で、「認知療法・認知行動療法」の対象疾患に不眠症が追加されています(不眠症は8回まで)[3]。
5. 分かっていること・分かっていないこと
ここまで手順を紹介してきましたが、正直にお伝えすべきことがあります。
このガイドラインは、減薬の方法を比べた研究が乏しいため、推奨の大半が専門家の合意にもとづいていると自ら明記しています[2]。「2〜4週ごとに5〜10%」という数字も、複数のやり方を比較して最も良いと証明されたものではなく、現時点で妥当と考えられた出発点です。
だからこそ、ガイドラインは繰り返し「一人ひとりに合わせて調整すること」を求めています。数字どおりに進めることより、その方の反応を見ながら速さを変えることのほうが重要だ、という位置づけです。
また、米国と日本では処方される薬の種類や量、保険制度が異なります。数字をそのまま日本の診療に当てはめられるわけではない点も、押さえておく必要があります。
6. 当院でのご相談について
「減らしたい」というご相談は、歓迎しています。理由は、その相談があって初めて、安全な計画が立てられるからです。
- 他院で処方されている方:まずは処方医にご相談いただくのが基本です。そのうえで、相談しづらい、方針が合わないといった事情があれば、お話を伺います
- 減らす時期を選びます:仕事の繁忙期や大きな生活の変化が控えている時期は、あえて先送りすることもあります
- 途中で止まってもかまいません:ここまで減らせた、という地点で維持する選択も、立派な結果です
- 眠りを支える方法を並行して整えます:薬を減らす分を、別の手当てで補っていく形です
よくあるご質問
睡眠薬のやめ方を知りたいのですが、どのくらいの期間がかかりますか?
もう何年も飲んでいます。今さらやめられますか?
減らしたら眠れなくなりました。失敗ということですか?
市販の睡眠改善薬やサプリに切り替えるのはどうですか?
「依存」と言われるのが怖くて、相談できません。
減らすときに、何か薬以外にできることはありますか?
「そろそろ減らしたい」と思ったときに
睡眠薬や抗不安薬を減らしたい、やめたいというご相談を承ります。すぐに減らすかどうかも含めて、一緒に検討します。平日は朝7時から診療しているため、出勤前にお越しいただけます。特定の治療をお約束するものではありませんが、まずはお話を伺います。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556/平日は朝7時から診療しています
参考文献(一次情報)
- 日本睡眠学会・睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループ, 厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業「睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班」(編). 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン. 2013. https://jssr.jp/files/guideline/suiminyaku-guideline.pdf/三島和夫. 睡眠薬の安全で安心な使用法について. 日本睡眠学会. https://www.jssr.jp/basicofsleepdisorders5
- American Society of Addiction Medicine ほか10団体. The ASAM Clinical Practice Guideline on Benzodiazepine Tapering(Joint Clinical Practice Guideline on Benzodiazepine Tapering). 2025年3月公表. https://www.asam.org/quality-care/clinical-guidelines/benzodiazepine-tapering(解説:J Gen Intern Med 掲載の編集論説)
- 厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定(「認知療法・認知行動療法」の対象疾患に不眠症を追加、不眠症は8回まで). 厚生労働省ウェブサイト「診療報酬改定について」に掲載の告示・通知による。
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