睡眠と働ける年数——50歳時点の眠りが、その後の就労期間と関連
2026年8月、7万人を超えるフィンランドの働き手を追跡した研究が発表されました。50歳の時点で睡眠の問題を抱えていた人は、その後に働ける年数の推計がやや短かった、という内容です。差は数か月から1年弱ですが、研究者らはこれを「慢性の病気を1〜2つ抱えているのと同じくらいの大きさ」と表現しています。
前田 輝(まえだ あきら) 院長
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
複数の精神科病院・クリニックでの勤務を経て、2026年4月に福岡市中央区六本松で開業。平日朝7時からの診療を行っています。
睡眠と働ける年数の関係は、これまであまり正面から調べられてきませんでした。眠れないことが体に悪い、という話は数多くありますが、「では実際に何年ぐらい働き続けられるかに影響するのか」を推計した研究は限られています。2026年8月にトゥルク大学(フィンランド)の研究グループが発表した報告は、この問いに数字で答えようとしたものです[1]。
1. どんな研究か
研究グループは、フィンランドの2つの大規模な追跡調査のデータを使いました。
- フィンランド公務員研究:2000〜2016年、公務員7万339人(うち約80%が女性)
- 健康と社会的支援研究:1998〜2013年、フィンランドの働く世代を代表する6,071人(うち54%が女性)
参加者には、睡眠の問題(なし/中等度/強い)と、ふだんの睡眠時間(7時間未満/7〜8.5時間/9時間以上)を回答してもらいました。そのうえで、50歳から68歳までのあいだに働いていると見込まれる年数(就労余命)を、実際の就労記録や年金記録をもとに計算しています。
ある年齢の人が、その後どれだけの期間、働き続けると見込まれるかを表した推計値です。平均余命と同じ考え方を、労働市場に当てはめたものと考えてください。病気で早く退職する人が多い集団では、この数字が短くなります。
2. 結果
まず、睡眠の問題の程度による差です。
睡眠の問題がない人で13.4年、中等度の人で13.0年、強い人で12.8年でした。差は、なしと強いで約7か月です。
次に、睡眠時間による差です。
興味深いのは、7時間未満の人と7〜8.5時間の人で、どちらも13.2年と差がなかった点です。一方で9時間以上眠る人は12.4年と短めでした。もう一つの調査(一般の働く世代を代表する集団)では、睡眠時間による差はさらに大きく出ています。
研究グループは、これらの差の大きさについて、慢性の病気を1〜2つ抱えている場合や、肥満・飲酒・喫煙・運動不足といった生活上の危険因子を2つ以上持っている場合、あるいは仕事の心理的負担や身体的負担が大きい場合に見られる差と、同じくらいの規模だと述べています[1]。数か月と聞くと小さく感じますが、働き方の研究で扱われる他の要因と比べれば、無視できる大きさではない、という位置づけです。
3. この研究から言えないこと
ここからが大切な部分です。この研究は観察研究であり、「眠りを改善すれば働ける年数が延びる」ことを示したものではありません。
とくに注意が必要なのが、9時間以上眠る人の結果です。長く眠っていることが体に悪いというより、長く眠らざるをえない別の理由——睡眠時無呼吸症候群、うつ病、甲状腺の問題、慢性の疲労を伴う病気など——が背後にあって、それが就労の継続に影響している可能性があります。原因と結果が逆向きかもしれない、ということです。また、この群に当てはまる人はごく少数で、特殊な集団になっている可能性もあります。
もう一つ、日本に当てはめるときの注意があります。フィンランドと日本では、年金の仕組み、定年の扱い、休職や復職の制度が異なります。数字そのものを日本の職場に直接持ち込むことはできません。
この研究で7時間未満の人に差が出なかったのは、あくまで「50歳から68歳までの就労期間」という一つの指標についてです。短時間睡眠と心臓病や糖尿病、事故のリスクを調べた研究は別に多数あります。働ける年数という物差しでは差が出なかった、と理解するのが正確です。
4. では、何ができるか
この研究の価値は、予測というより「眠りの問題は個人の生活の質の話にとどまらず、働き続けられるかにも関わる」という視点を示した点にあります。そして、不眠は治療できる問題です。
不眠症の認知行動療法(CBT-I)
国際的に、慢性的な不眠症の治療の第一選択とされているのは薬ではなく、不眠症に特化した認知行動療法です。眠る時間帯の整え方、眠れないまま床にいる時間の扱い方、眠りについての考え方の修正などを組み合わせます。
日本でも制度が動きました。2026年度の診療報酬改定で、「認知療法・認知行動療法」の対象疾患に不眠症が追加されています(不眠症は8回まで)。また2026年6月には、不眠障害の領域で国内初となる治療用のプログラム医療機器が保険適用となりました。
いびきと日中の眠気があるなら
長く眠っても疲れが取れない、いびきを指摘される、日中に強い眠気があるという場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を検討する価値があります。これは検査で確かめられ、治療法もある病気です。「眠りが浅いだけ」と片づけられていることが少なくありません。
受診しやすさという問題
働いている方にとって、平日の日中に医療機関を受診することは簡単ではありません。半休を取る、上司に説明する、というハードルが、そのまま「相談しないまま何年も過ぎる」という結果につながります。当院が平日朝7時から診療しているのは、この部分を少しでも下げたいと考えているためです。出勤前の時間に相談できれば、職場に伝える必要もありません。
よくあるご質問
睡眠と働ける年数の関係は、日本人にも当てはまりますか?
7時間未満でも差がなかったなら、睡眠時間は短くてもよいのですか?
9時間以上眠っているのですが、働けなくなるということでしょうか?
不眠はまず薬で治すものではないのですか?
仕事が忙しく、平日に受診できません。
眠れないことを会社に知られたくありません。
眠れない状態が続いているときに
寝つけない、途中で目が覚める、眠った気がしない。こうした状態が数週間以上続いているなら、一度ご相談ください。平日は朝7時から診療しているため、出勤前にお越しいただけます。特定の検査や治療をお約束するものではありませんが、まずはお困りごとを伺います。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556/平日は朝7時から診療しています
参考文献(一次情報)
- Myllyntausta S, Heikkilä K, Pentti J, et al. Sleep disturbances and sleep duration as predictors of working life expectancy among adults aged 50 years and older in Finland. Occup Environ Med. 2026 Aug 18:oemed-2025-110766(オンライン先行公開). doi:10.1136/oemed-2025-110766
- 厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定(「認知療法・認知行動療法」の対象疾患に不眠症を追加、不眠症は8回まで). 厚生労働省ウェブサイト「診療報酬改定について」に掲載の告示・通知による。
コメント