トマトと認知機能の関係|3か月間の比較試験が示したこと
「これを食べると頭が良くなる」という話は、いつの時代も尽きません。多くは観察研究や動物実験にとどまりますが、2026年、トマトだけを対象にしたランダム化比較試験の結果が報告されました。示されたことと、示されていないことを分けて読んでいきます。
- 単一食品での比較試験
- 40〜55歳の健康な成人42名
- 平日朝7時から受診できます
院長 前田 輝(まえだ あきら)
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F(地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分)
SECTION 1食事と脳の話を、どう受け取るか
食事と脳の関係についての情報は、あふれています。ただ、その多くは「よく食べている人ほど認知機能が高かった」という観察研究です。この種の研究では、食習慣そのものではなく、その背景にある生活水準や運動習慣が結果を説明している可能性を消しきれません。
より確かなことを言うには、同じ人たちを無作為に振り分けて、実際に食べてもらう試験が必要になります。ところが食品の研究では、これが簡単ではありません。薬と違って見た目も味も隠せませんし、単一の食品だけを取り出した試験はほとんど行われてきませんでした。
今回紹介する研究は、その空白を埋めようとしたものです。バルセロナ大学の研究グループが、トマトという単一の食品だけを対象にしたランダム化クロスオーバー試験を実施し、2026年5月に『Antioxidants』誌へ発表しました。
SECTION 2どんな試験だったのか
試験の設計を確認しておきます。ここを押さえておかないと、結果を正確に受け取れません。
参加者は、慢性疾患も精神疾患もない健康な40〜55歳の成人です。喫煙者は除外され、アルコールの問題がある方も含まれていません。認知機能のスクリーニング検査でも正常範囲であることが確認されています。つまり、もともと健康な中年の方々を対象とした試験です。
クロスオーバー試験という設計が使われており、参加者全員が「トマトを摂る3か月」と「リコピンを控える3か月」の両方を経験します。同じ人が自分自身の対照になるため、個人差の影響を減らせるという利点があります。
SECTION 3何が変わり、何が変わらなかったか
結果は、変化があった項目と、なかった項目に分かれました。
BDNFという指標について
研究グループは、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質にも注目しました。神経の成長やシナプスの可塑性に関わるたんぱく質で、動物実験ではリコピンがBDNFの発現を高めることが報告されています。
今回、血中BDNFはトマト摂取によって平均15.2 ng/mLの上昇を示しました。ただし論文の著者ら自身が、統計的に境界的であること、個人差が大きいこと、持ち越し効果が認められたことを挙げ、この結果は予備的なものとして慎重に解釈すべきだと述べています。実際、BDNFの変化と認知機能の変化とのあいだに直接の関連は認められませんでした。
脳の画像についても、安静時fMRIで神経ネットワークの結合の変化が観察されています。ただしこちらは参加者42名のうち14名だけを対象とした探索的な解析であり、統計的な補正を厳しくかけた条件での結果ではありません。「脳の画像が変わった」という見出しだけが独り歩きしやすい部分ですので、規模を知っておく価値があります。
SECTION 4この研究が示したこと、示していないこと
ここが最も大切な部分です。研究の価値を正しく評価するには、境界線を引く必要があります。
著者ら自身が挙げている限界を、いくつか具体的に見ておきます。
- 盲検化ができていません。トマトペーストと見分けのつかない偽の食品を作ることは不可能なため、参加者は自分がどちらの期間かを知っていました。期待による影響を完全には排除できません。
- 参加者に偏りがあります。自発的な応募によって集まったため、9割以上が高等教育を修了した集団になりました。
- 対照は「リコピンを控える食事」でした。プラセボではなく食事制限だったため、制限そのものが差を生んだ可能性を排除できないと著者らは述べています。
- 期間は3か月です。それを超えて効果が持続するか、加齢に伴う認知機能の低下を実際に防げるかは、この試験からは分かりません。
SECTION 5食事と脳の、現実的なつきあい方
では、この研究をどう活かせばよいのでしょうか。私は、単一の食品に賭けるのではなく、食事全体のパターンを考えるほうが現実的だと考えています。
この試験の背景にあるのは、地中海食の研究です。抗酸化物質と抗炎症作用を持つ成分を多く含む食事パターンが、認知機能にとって好ましいという報告が積み重なってきました。トマトはその中心的な食材のひとつであって、それだけを取り出せば済むという話ではありません。
脳とこころのために、確からしいこと
- 野菜と果物を彩りよく。特定の一品を大量に摂るより、いろいろな色のものを日常的に食べるほうが理にかなっています。
- 睡眠を削らない。食事の工夫より、睡眠不足の影響のほうがはるかに大きく注意力を落とします。
- 体を動かす。運動が認知機能に与える効果は、食事の効果よりも一貫して報告されています。
- 飲酒を見直す。習慣的な飲酒は、睡眠の質と認知機能の両方に影響します。
- 人と関わる時間を持つ。孤立は、脳の健康にとって無視できない要因です。
「集中できない」が続くとき
注意力の低下が気になって受診される方は少なくありません。その背景には、睡眠時無呼吸、慢性的な不眠、うつ状態、甲状腺の機能異常、貧血、そして発達特性など、さまざまな可能性があります。食事を工夫しても改善しない状態が続いているなら、原因を確かめたほうが早い場合があります。
FAQよくあるご質問
トマトをたくさん食べれば、頭が良くなるのですか?
認知症の予防になりますか?
生のトマトでもよいのですか?
リコピンのサプリメントで代用できますか?
うつ症状にも効きますか?
食事を変えれば薬をやめられますか?
CONTACT集中力の低下が続いているなら
「最近、頭が働かない」「集中力が続かない」「人の名前が出てこない」。こうした変化が続いているとき、背景には睡眠、気分、身体の状態など、確かめられる要因があることがあります。当院では、生活の状況をうかがったうえで、必要な評価と対応をご提案します。年齢のせいと決めてしまう前に、一度ご相談ください。
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TEL 092-401-4556
平日は朝7時から診療しています
REFERENCES参考文献
- López-Solís R, Donat-Vargas C, Ramírez-Carrasco P, et al. Tomato Intake Improves Cognitive Performance and Modulates Functional Brain Networks in Healthy Adults: A Randomized Crossover Clinical Trial. Antioxidants. 2026;15(5):644. doi:10.3390/antiox15050644
https://www.mdpi.com/2076-3921/15/5/644 - ClinicalTrials.gov. MITOS study(NCT05891977)
- Kesse-Guyot E, Andreeva VA, Ducros V, et al. Carotenoid-rich dietary patterns during midlife and subsequent cognitive function. Br J Nutr. 2014;111(5):915-923.
- Imran M, Ghorat F, Ul-Haq I, et al. Lycopene as a Natural Antioxidant Used to Prevent Human Health Disorders. Antioxidants. 2020;9(8):706. doi:10.3390/antiox9080706
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