治療しても良くならないうつ——うつと睡眠時無呼吸の意外な関係
薬を飲んでいるのに、だるさが抜けない。気分は少し上向いたのに、朝起きるとぐったりしている。集中できず、日中ずっと眠い。——こうした状態が続くとき、うつ病だけでなく「睡眠時無呼吸症候群」が隠れていることがあります。2つの病気はとてもよく似た顔をしているため、互いに見逃されやすいのです。
前田 輝(まえだ あきら) 院長
精神保健指定医/日本専門医機構認定 精神科専門医
複数の精神科病院・クリニックでの勤務を経て、2026年4月に福岡市中央区六本松で開業。平日朝7時からの診療を行っています。
うつと睡眠時無呼吸は、症状の多くが重なり合うため、医療者にとっても見分けがむずかしい組み合わせです。睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に何度も呼吸が止まったり浅くなったりする病気で、そのたびに眠りが分断されます。その結果として現れる「だるさ」「集中できない」「やる気が出ない」は、うつ病の症状とそっくりです。この記事では、両者の関係について研究で分かってきたことを、限界も含めて整理します。
1. 治療しても良くならないとき、見直したいこと
うつ病の治療では、十分な量と期間で薬を使っても、思うように良くならないことがあります。そうしたとき、薬を変えたり増やしたりする前に確認したいのが、「うつ病の症状を長引かせている、別の原因はないか」という点です。
その候補には、甲状腺の病気や貧血、薬の影響、飲酒など、さまざまなものがあります。睡眠時無呼吸症候群も、その中の重要な一つです。睡眠の問題は、うつ病の診療の中で定期的に詳しく調べられることが少なく、それが治療がうまくいかない理由になっている可能性があると指摘されています[1]。
2. 症状がとてもよく似ている
実際、両者は高い割合で重なっています。治療を受けていない睡眠時無呼吸の患者さんを対象にした7つの研究を統合した解析では、約23%に、診断基準を満たすうつ病がみられました[2]。
そして重要なのは、睡眠時無呼吸症候群の多くが診断されないままになっていると推定されていることです[2]。眠っている間のことなので、本人はまず気づきません。
3. うつ病の人に、気づかれていない無呼吸
逆の方向、つまり「うつ病の人の中に、どのくらい無呼吸が隠れているか」を調べた研究は、まだ多くありません。ただ、いくつかの報告があります。
米国の研究では、自殺念慮と不眠のあるうつ病の方125人に睡眠の検査を行ったところ、誰も無呼吸を疑われていなかったにもかかわらず、14%が睡眠時無呼吸症候群の基準を満たしました[3]。しかも、日中の眠気や不眠の強さからは、無呼吸の重さを予測できなかったと報告されています。つまり、「眠気がそれほど強くないから大丈夫」とは言えないということです。
また、気分障害の専門外来に通う、治りにくいうつ病の方94人を調べた研究では、それまで睡眠の評価を受けたことのない方の65%(基準の取り方によっては79%)に、睡眠時無呼吸症候群が見つかりました[4]。男女の差が小さかったことも特徴とされています。
4. 無呼吸を治療すると、うつは良くなるのか
睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療は、CPAP(シーパップ)です。眠るときに鼻にマスクをつけ、空気の圧力でのどが塞がらないようにする方法です。
心臓や脳の血管の病気がある睡眠時無呼吸の患者さんを対象にした大規模なランダム化比較試験(SAVE試験)のデータを用いた解析では、CPAPを使った群は、通常の治療だけの群に比べて、うつ状態に当てはまる可能性が有意に低くなっていました(オッズ比0.80)[5]。もともと抑うつ症状があった方でより効果が大きく、改善は治療開始から数か月のうちに現れ、日中の眠気の改善とは別に起きていたとされています。
同じ論文で行われた、20のランダム化比較試験を統合した解析でも、CPAPはうつ症状を軽くすることが確認されました。一方で、不安症状については明確な効果は確認されませんでした[5]。
5. 分かっていること・分かっていないこと
この分野には、いくつかの大きな限界があります。
まず、SAVE試験はもともと心臓や脳の血管の病気の予防を目的とした試験で、対象は心血管の病気を持つ方でした。うつ病の治療としてCPAPを試した研究ではありません。また、この試験では、CPAPをしっかり使った人とあまり使わなかった人で結果に差がなかったことも報告されており[6]、改善がどこまで呼吸の改善そのものによるのかは、まだはっきりしていません。
うつ病の人に無呼吸が見つかる割合を調べた研究も、少人数で、特定の患者さんに限られたものです。「治りにくいうつ病の多くは無呼吸が原因」とまで言える根拠はありません。言えるのは、「見逃されやすく、確認する価値がある」ということです。
気になったら、まず伝えてください
うつ病の治療を受けていて、図1の「無呼吸を疑う手がかり」に当てはまるものがあれば、ぜひ主治医にお伝えください。一緒に寝ているご家族に、いびきや呼吸の止まり方について聞いてみることも、とても役に立ちます。
睡眠時無呼吸症候群の検査は、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠を専門とする外来などで受けられます。自宅で、指や鼻にセンサーをつけて眠るだけの簡易な検査もあります。
また、日中の強い眠気がある方は、車の運転に十分ご注意ください。睡眠時無呼吸症候群は、居眠り運転の原因になることが知られています。
よくあるご質問
うつと睡眠時無呼吸は、どう関係しているのですか?
やせていても、睡眠時無呼吸になりますか?
一人暮らしで、いびきや呼吸の様子が分かりません。
睡眠時無呼吸の検査は、どこで受けられますか?
CPAPを始めれば、抗うつ薬はやめられますか?
睡眠薬を飲んでいますが、無呼吸があっても大丈夫ですか?
うつの治療が、なかなか進まないときに
「薬を飲んでいるのに、すっきりしない」というご相談を承ります。睡眠の状態を含めて、良くならない理由を一緒に整理します。必要に応じて、睡眠の検査ができる医療機関もご案内します。平日は朝7時から診療しています。特定の検査や治療をお約束するものではありません。
〒810-0045 福岡市中央区草香江2-1-5 AG六本松4F
地下鉄七隈線「六本松」駅 徒歩2分
TEL 092-401-4556/平日は朝7時から診療しています
参考文献(一次情報)
- Ejaz SM, Khawaja IS, Bhatia S, Hurwitz TD. Obstructive sleep apnea and depression: a review. Innov Clin Neurosci. 2011;8(8):17-25. PMC3173758
- Clinical depression in untreated obstructive sleep apnea: examining predictors and a meta-analysis of prevalence rates. Sleep Med. 2019. ScienceDirect
- McCall WV, Benca RM, Rumble ME, et al. Prevalence of obstructive sleep apnea in suicidal patients with major depressive disorder. J Psychiatr Res. 2019(オンライン公開2019年6月). ScienceDirect
- Gender differences in obstructive sleep apnea with comorbid treatment-resistant depression. Sleep Sci Pract. 2023. doi:10.1186/s41606-023-00087-z
- Zheng D, Xu Y, You S, et al. Effects of continuous positive airway pressure on depression and anxiety symptoms in patients with obstructive sleep apnoea: results from the sleep apnoea cardiovascular endpoint randomised trial and meta-analysis. EClinicalMedicine. 2019;11:89-96. doi:10.1016/j.eclinm.2019.05.012
- Marrone O. Mood after CPAP: fewer patients with depression, but not fewer with anxiety. EClinicalMedicine. 2019(文献[5]への論評). PMC6610768
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